【火曜連載19】女性ホルモンと体型の科学|エストロゲンと認知機能|もの忘れは更年期のせいか|LiAiL

2026.09.22

パパ、前回は心臓の話だったけど、今日はもの忘れなの?「更年期でもの忘れが増えた」って気のせいなのかな、それとも本当に起きてることなの?🐾

気のせいではないというのが結論よ。しかも前回のELITE試験には、実は「姉妹試験」があって、認知機能についても同じように検証しているの。パパ、その意外な結果を説明してあげて。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.18では「エストロゲンと心血管疾患」についてお伝えしました。今週Vol.19は、20,000セッションを超える指導の中でも更年期世代のお客様から頻繁にご相談いただくテーマ、「エストロゲンと認知機能。もの忘れは更年期のせいか」を解説します。

(👉 【火曜連載18】エストロゲンと心血管疾患はこちら)
(👉 【火曜連載04】更年期前後のホルモン変化と体型崩れはこちら)
(👉 【火曜連載13】女性ホルモンと睡眠の質はこちら)

「更年期のもの忘れは気のせい」「歳のせいだから仕方ない」——実はどちらも正確ではありません。大規模な追跡調査は、もっと具体的で、そして希望の持てる実態を示しています。


1. 「もの忘れ」は思い込みか。まず結論から言うと本当に起きている

更年期世代の女性の多くが「もの忘れが増えた」と感じますが、これを裏付ける大規模な縦断研究があります。

📚 専門的エビデンス①
Greendale GA, et al. “Effects of the menopause transition and hormone use on cognitive performance in midlife women.” Neurology, 2009.
PubMedで詳しく見る

2,362名の女性を対象に、更年期の各段階を通じて処理速度・言語性記憶・作業記憶を繰り返し測定した大規模縦断研究(SWAN研究)です。閉経前・更年期前期・閉経後の女性は、繰り返しテストを受けることで通常見られる「練習による成績向上」を示した一方、更年期後期の女性だけはこの練習効果による向上が見られませんでした。そしてこの状態は、閉経後には解消し、閉経前の水準まで回復しました。

つまり「もの忘れ」は思い込みではなく、更年期後期という特定の時期に限定して実際に起こる、一過性の現象です。そして重要なのは、これが永続する変化ではなく、閉経後には自然に回復するという点です。


2. 「ならばエストロゲンを補充すれば治るのでは」。姉妹試験が示した意外な結果

Vol.18で解説したELITE試験(心血管系への効果を「タイミング仮説」で検証した試験)には、実は認知機能を検証した姉妹試験が存在します。

📚 専門的エビデンス②
Henderson VW, et al. “Cognitive effects of estradiol after menopause: A randomized trial of the timing hypothesis.” Neurology, 2016.
PubMedで詳しく見る

567名の健康な閉経後女性を、閉経後6年未満と10年以上の2群に分け、エストラジオールまたはプラセボを投与して言語性記憶・実行機能・総合的認知機能を比較したランダム化比較試験です。結果、エストラジオール投与は、閉経後6年未満・10年以上のどちらの群においても、プラセボと比べて記憶や認知機能を改善しませんでした。両群とも、テストを繰り返すことによる素点の向上(練習効果)は同程度に見られました。

ここが非常に興味深い点です。Vol.18で解説した血管への効果では「タイミング仮説」が支持されましたが、認知機能に関しては、同じ枠組みの試験で支持されませんでした。同じホルモン、同じ「タイミング仮説」という考え方でも、対象となる臓器・機能によって結果が異なるという、科学の誠実な複雑さがここに表れています。


3. 「効き目がない」ことが教えてくれること。もの忘れの正体を再定義する

この2つの研究を組み合わせると、更年期のもの忘れの正体がより明確になります。もの忘れは「エストロゲンが少ない」という持続的な欠乏状態によって起こる、補充すれば治る不調ではなく、更年期後期という移行期そのものに伴う、一過性の神経系の適応過程である可能性が高いということです。SWAN研究では、ほてりなどの血管運動神経症状や睡眠の問題がこの現象を十分に説明しないことも確認されており、単純に「眠れないから頭が働かない」という話ではない点も重要です。

「治療しても改善しない」という結果は、一見ネガティブに聞こえるかもしれません。しかし「いずれ自然に回復する時期限定の現象である」という見通しを持てること自体が、不安を減らす実用的な情報になります。


4. LiAiL式「更年期の”もの忘れ”と向き合う5つの視点」

  1. 「気のせい」と自分を責めない:大規模な客観データが実際に起きている現象であることを示している。自己評価を必要以上に下げる理由にはならない。
  2. 「一生続く」ものではないと知る:更年期後期に限定される一過性の現象であり、閉経後には回復する見通しがあるというデータを心に留めておく。
  3. エストロゲン補充だけに過度な期待をしない:認知機能に関してはタイミング仮説が支持されなかった。ホルモン療法を検討する場合も、認知機能改善を主目的にしない。
  4. 睡眠・運動という基本を継続する:Vol.13で扱った睡眠の質を整えることや、有酸素運動は、直接的な原因治療ではなくても脳の健康を支える土台として引き続き重要。
  5. 急激な悪化や日常生活への支障がある場合は専門医に相談する:更年期による一過性の変化の範囲を超える症状は、他の原因が隠れている可能性がある。自己判断せず、婦人科医または神経内科医に相談してください。

まとめ。もの忘れは「治すもの」ではなく「過ぎ去るもの」として理解する

火曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1:エストロゲンと脂肪分布の真実
  • Vol.2:月経周期の4フェーズと代謝変動
  • Vol.3:プロゲステロンと食欲の暴走
  • Vol.4:更年期前後のホルモン変化と体型崩れ
  • Vol.5:活性型ビタミンDとエストロゲンの関係
  • Vol.6:レプチンとエストロゲンの逆フィードバック
  • Vol.7:コルチゾールと女性の体型
  • Vol.8:甲状腺ホルモンと代謝
  • Vol.9:PCOSとインスリン抵抗性
  • Vol.10:テストステロン・DHEAと女性の筋肉量
  • Vol.11:妊娠・産後のホルモン変化と体型
  • Vol.12:授乳期のホルモンと体型変化
  • Vol.13:女性ホルモンと睡眠の質
  • Vol.14:女性ホルモンと肌質の変化
  • Vol.15:経口避妊薬(ピル)とホルモンの科学
  • Vol.16:エストロゲンと自己免疫疾患
  • Vol.17:女性ホルモンと運動パフォーマンス
  • Vol.18:エストロゲンと心血管疾患
  • Vol.19:エストロゲンと認知機能

次週Vol.20では、「エストロゲンと片頭痛。生理前後に頭痛が増える理由」を解説します。多くの女性を悩ませる周期性の頭痛のメカニズムをお伝えします。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「治療しても改善しない」のに「そのうち自然に治る」なんて、不思議な組み合わせだけど、確かに安心材料になるね🐾

同じ試験の枠組みなのに、血管では効いて脳では効かないってのが面白いな。臓器によって全然違うってことか🐾

小太郎、その通りよ。来週Vol.20は「エストロゲンと片頭痛」。生理前後に頭痛が増える理由を解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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