【水曜連載22】プロアスリートの技術を一般に|体幹トレーニングの常識を疑え|LiAiL

2026.10.07

パパ、お客さんが「腹筋を割りたいから毎日100回、腹筋運動をしてる」って言ってたんだけど、それで本当に割れるの?🐾

それは「部分痩せ神話」ね。お腹の脂肪を落とすために、お腹の筋肉だけを鍛えても脂肪は狙い撃ちできないの。研究データもあるわ。パパ、その真実を語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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22,000セッションを超える指導の中で、「腹筋を割りたい」というご相談は男女を問わず最も多いものの一つです。そして、その多くの方が「まず腹筋運動を増やそう」と考えて来られます。Vol.2では腹圧と横隔膜の真実を、Vol.9では腰椎骨盤リズムの破綻をお伝えしましたが、今週Vol.22では、体幹トレーニングそのものの前提を見直します。テーマは「体幹トレーニングの常識を疑え。腹筋を割るのに腹筋運動は最短ルートではない理由」です。

(👉 【水曜連載Vol.2】腹圧と横隔膜の真実はこちら)
(👉 【水曜連載Vol.9】腰椎骨盤リズムの破綻はこちら)
(👉 【水曜連載Vol.19】炭水化物断ちの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.21】フリーウェイトとマシンの常識を疑えはこちら)

先に結論を言うと、体幹トレーニングは無意味ではありません。ただし「腹筋を割る」という目的に対して、腹筋運動を増やすことが最短ルートかというと、そうではないのです。


1. 「腹筋を割る=腹筋運動」という思い込みはどこから来たのか

「お腹の脂肪を落とすには、お腹の筋肉を鍛えればいい」という考え方は、直感的でとても分かりやすいものです。使った部位の脂肪が優先的に燃える、という発想は部分痩せ(スポットリダクション)と呼ばれ、フィットネス業界で長年信じられてきました。テレビ通販や雑誌の「1日◯分で下腹スッキリ」といった宣伝も、この直感に強く訴えかけるものです。

しかし、脂肪の使われ方はそれほど単純ではありません。運動中にエネルギーとして使われる脂肪は、特定の部位からだけ取り出されるわけではなく、体全体に蓄えられた脂肪組織から血流を通じて供給されます。つまり、腹筋を動かしたからといって、腹部の脂肪だけが選択的に燃えるという仕組みにはなっていないのです。

もう一つ見落とされがちな点があります。腹直筋(いわゆるシックスパックを作る筋肉)は、誰にでもすでに存在しています。腹筋が割れて見えるかどうかは、筋肉の有無というより、その上を覆う脂肪の厚さに大きく左右されます。「腹筋が割れていない」のは、腹筋がないからではなく、腹筋が脂肪の下に隠れているケースが非常に多いのです。


2. 通説を覆すエビデンス。腹筋運動をしても腹部の脂肪は減らない

この点を直接検証した研究として、Vispute氏らが2011年に発表したランダム化比較試験があります。18〜40歳の健康な運動習慣のない24名(男性14名、女性10名)を腹筋運動群と対照群に分け、腹筋運動群には7種類の腹筋運動を1種目2セット×10回、週5日、6週間にわたって実施させました。参加者全員が、期間中は摂取エネルギーを維持する食事(等カロリー)を続けています。

結果として、腹筋運動群では腹筋の筋持久力は向上した一方で、体重・体脂肪率・腹部の脂肪量・腹囲・皮下脂肪厚のいずれにも、対照群との間に統計的に有意な差は確認されませんでした。週5日、6週間という決して少なくない量の腹筋運動を行っても、お腹まわりの脂肪は有意に減らなかったということです。

ただし、この研究には限界もあります。参加者が24名と少なく、期間も6週間と短いため、これだけで結論を断定することはできません。それでも、「腹筋運動だけでお腹の脂肪を落とす」という戦略が、少なくとも効率の良い方法ではないことを示す、代表的なデータの一つとされています。

では、何がお腹まわりの脂肪を減らすのか。体脂肪は、エネルギー摂取量が消費量を下回る状態が続くことで、全身から少しずつ減っていきます。どの部位から先に落ちるかには個人差がありますが、お腹まわりだけを狙って落とすことはできません。食事による総エネルギー収支の管理と、全身を使ったトレーニングによる消費の積み上げが、結局は最短ルートになります。Vol.19でお伝えした「目的に合わせて摂取を設計する」という考え方は、ここでもそのまま当てはまります。


3. 体幹トレーニングは無意味ではない。ただし目的が違う

誤解のないようにお伝えすると、「腹筋運動は意味がない」と言いたいわけではありません。体幹トレーニングには、脂肪を落とす目的とは別に、はっきりとした価値があります。

一つ目は安定性です。Vol.2で解説した腹圧(IAP)を高めて体幹を固める能力は、スクワットやデッドリフトの安全性と出力を大きく左右します。また、Vol.9で解説した腰椎骨盤リズムを保つためにも、体幹が動作中に崩れない土台となっている必要があります。この目的では、腹筋運動のように体幹を丸めて動かす種目より、プランクやパロフプレスのように「体幹を動かさずに耐える」種目や、ファーマーズウォークのような荷物を運ぶ種目の方が、実際の動作に直結しやすいと考えられます。

二つ目は腹直筋そのものの発達です。腹筋の見た目の立体感を出したい場合、腹直筋を筋肥大させることには意味があります。他の筋肉と同様に、一般に負荷を漸進的に高めていくことが重要で、自重で回数だけを増やし続けるより、ケーブルクランチなどで重量を扱う方が、狙いに合いやすいと言えます。

実際の指導現場でよく見られるのは、毎日の腹筋運動には熱心なのに、食事の管理や全身のトレーニングがおろそかになっているケースです。目的が「腹筋を割る(体脂肪を落とす)」なのか、「体幹を安定させて挙上パフォーマンスを高める」なのか、「腹直筋を大きくする」のか。この整理をしないまま種目を選ぶと、努力の量に対して結果が伴いにくくなります。

📚 専門的エビデンス
Vispute SS, Smith JD, LeCheminant JD, Hurley KS. “The effect of abdominal exercise on abdominal fat.” Journal of Strength and Conditioning Research, 2011;25(9):2559-2564.
PubMedで詳しく見る

本研究は、健康で運動習慣のない18〜40歳の24名(男性14名、女性10名)を腹筋運動群と対照群に無作為に分け、腹筋運動(7種目・各2セット×10回・週5日・6週間)が腹部の脂肪に与える影響を調べたものです。全員が等カロリーの食事を維持した条件下で、腹筋運動群でも体重・体脂肪率・腹部脂肪量・腹囲・皮下脂肪厚に有意な変化は認められませんでした。標本数が小さく期間も短い点には注意が必要ですが、局所的な運動で局所の脂肪を落とす「部分痩せ」を支持しない代表的な研究として知られています。


4. LiAiL式「体幹トレーニングを正しく設計する5つの介入」

  1. 腹筋を見せたいなら体脂肪の管理を最優先にする:腹筋運動の量を増やす前に、食事による総エネルギー収支を見直してください。腹筋が見えるかどうかは、脂肪の厚さに大きく左右されます。なお、腹筋が見え始める体脂肪率の目安は男性で10%前後、女性で16〜20%前後と言われることが多いですが、あくまで一般的な目安で、個人差は大きいと考えてください。
  2. 全身を使うトレーニングで消費を積み上げる:スクワットやデッドリフト、ローイングなどの複合種目と日常の活動量を組み合わせ、全身の消費エネルギーを底上げしてください。部分ではなく全体で脂肪を減らす発想が近道です。
  3. 体幹トレーニングを目的別に使い分ける:安定性が目的なら、プランクやパロフプレス、ファーマーズウォークなど「動かさず耐える」種目を。腹直筋の発達が目的なら、ケーブルクランチなど負荷を漸進的に高められる種目を選んでください。
  4. 複合種目での体幹の動員を活かす:Vol.2で解説した腹圧とブレーシングを意識しながら複合種目を行うだけでも、体幹には十分な刺激が入ります。腹筋専用の種目を増やす前に、複合種目の質を確認してください。
  5. 腰の痛みや強い違和感がある場合は自己判断で継続しない:体幹トレーニング中に腰痛や強い違和感が出る場合、種目の選び方やフォームに問題がある可能性があります。無理に継続せず、医療機関や専門家への相談を優先してください。

まとめ:腹筋を割る近道は「腹筋運動を増やす」ことではない

今回関連の深い過去の回を振り返ります。

  • Vol.2:腹圧と横隔膜が体幹の安定性を支える
  • Vol.9:体幹の安定性が腰椎骨盤リズムの土台になる
  • Vol.19:食事は「痩せる」と「強くなる」で目的に合わせて設計する

次週Vol.23では、「筋肉痛の常識を疑え。筋肉痛がないと効いていないは本当か」を解説します。今回の「思い込みを一度手放す」という視点を、トレーニング効果の判断基準に応用する内容です。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「腹筋はもうあるのに、脂肪の下に隠れてるだけ」。この言葉、毎日100回がんばってる人にこそ届けたいね🐾

オレのお腹はぷにぷにだが、腹筋運動をやれば割れるのか?🐾

小太郎、まずはおやつの量を見直しなさい。来週Vol.23は「筋肉痛の常識を疑え」。筋肉痛がないと効いていないは本当かを解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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