【水曜連載19】プロアスリートの技術を一般に|炭水化物断ちの常識を疑え|LiAiL
パパ、糖質を抜けば脂肪を燃やす体になって、競技パフォーマンスも上がるって聞いたんだけど、本当?🐾
それ、実はエリート競歩選手を対象にした研究で覆されているのよ。脂肪を使う能力は上がっても、肝心のタイムは伸びなかったの。パパ、その真実を語りなさい。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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20,000セッションを超える指導の中で、「糖質を抜けば脂肪を使う体になり、パフォーマンスも上がる」という説明を、お客様からも他のトレーナーからも数え切れないほど聞いてきました。Vol.1ではスクワットの常識を、Vol.17ではクールダウンの常識を、Vol.18ではプロテインタイミングの常識を疑いました。今週Vol.19も同じ切り口で、「炭水化物断ちの常識を疑え。糖質制限が競技パフォーマンスを下げるケース」を解説します。
(👉 【水曜連載Vol.1】スクワットの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.17】クールダウンの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.18】プロテインタイミングの常識を疑えはこちら)
「脂肪を使えるようになる」というのは、糖質制限に関する話の半分に過ぎません。競技パフォーマンスという結果に結びつくかどうかは、また別の問題です。
1. 糖質制限が支持されてきた理由。脂肪利用を高めるという理屈
低糖質・高脂質食(LCHF、いわゆるケトジェニック食)は、体内の糖質(グリコーゲン)を枯渇させることで、体が脂肪をエネルギー源として使う割合を高めるという生理学的な適応を狙った食事法です。脂肪は体内に豊富に蓄えられているため、「糖質切れによるバテを防げる」「脂肪をより多く燃やせるようになる」という理屈から、持久系競技を中心に一定の支持を集めてきました。
実際、糖質制限を続けると運動中の脂肪利用率が高まること自体は、複数の研究で確認されています。問題は、この「脂肪を使えるようになる」という適応が、そのまま「タイムが速くなる」という競技成績の向上に直結するとは限らない点です。
2. 通説を覆すエビデンス。脂肪利用は増えても運動の「経済性」が落ちる
ここで鍵になるのが運動経済性(Exercise Economy)という概念です。これは、同じ速度・強度で運動する際に、どれだけ少ない酸素消費量で済ませられるかを示す指標で、経済性が高いほど同じエネルギーでより長く・より速く動けます。
脂肪は糖質に比べてエネルギーを取り出す過程でより多くの酸素を必要とするため、脂肪利用率が高まるほど、同じ速度を維持するために必要な酸素の量が増え、運動経済性はむしろ悪化する方向に働きます。糖質制限によって「脂肪を使う体」にはなっても、それが実際の競技パフォーマンスという結果には結びつかない、あるいは悪化させてしまうケースがあるのは、このためです。
3. 現場での正しい優先順位。目的によって答えは変わる
実際の指導現場では、目的によって糖質の扱いを明確に分ける必要があります。競技会に向けたパフォーマンス向上や高強度トレーニングを積む期間は、糖質をしっかり確保することが結果に直結します。一方、純粋な減量が目的で、競技パフォーマンスを一時的に犠牲にしても構わない期間であれば、糖質制限は選択肢になり得ます。
「痩せたいから糖質を抜く」ことと、「強くなりたいから糖質を抜く」ことは、全く別の目的です。この2つを混同したまま「糖質は悪」という一律の判断をしてしまうと、減量には効果があっても、肝心のパフォーマンスを損なうという本末転倒な結果を招きかねません。
📚 専門的エビデンス
Burke LM, et al. “Low carbohydrate, high fat diet impairs exercise economy and negates the performance benefit from intensified training in elite race walkers.” The Journal of Physiology, 2017;595(9):2785-2807.
PubMedで詳しく見る
本研究はエリート競歩選手を対象に、高糖質食群・糖質ピリオダイゼーション群・低糖質高脂質食群(1日50g未満、総エネルギーの78%を脂質から摂取)に分けて3週間の強化トレーニングを行ったものです。全群でピークの有酸素能力(VO2peak)は向上しましたが、実際のレースタイムが改善したのは高糖質食群のみでした。低糖質高脂質食群は脂肪酸化能力が大きく向上した一方、レースペースでの酸素消費量(運動経済性の指標)が悪化し、トレーニング効果がタイムの改善に結びつかなかったことが報告されています。
4. LiAiL式「炭水化物摂取を正しく設計する5つの介入」

- 高強度トレーニング・競技直前期は炭水化物摂取量を確保する:パフォーマンスを最優先すべき期間は、糖質制限を避け、トレーニング強度に見合った十分な炭水化物を摂取してください。
- 減量期は「炭水化物ピリオダイゼーション」を活用する:常に糖質を減らすのではなく、高強度日は多め、低強度日は少なめというように、トレーニング内容に応じて摂取量を波打たせる運用を検討してください。
- 脂質利用能力を高める目的なら低強度の文脈で活用する:脂肪をエネルギー源として使う能力そのものを高めたい場合は、競技パフォーマンスへの影響が小さい低強度の有酸素トレーニング期間に限定して取り入れる方が合理的です。
- 「痩せたいから」と「強くなりたいから」の目的を混同しない:糖質制限を検討する際は、まず自分がどちらを優先しているのかを明確にしてください。目的が曖昧なまま極端な食事法を選ぶと、意図しない結果を招きます。
- 極端な糖質制限で体調不良・パフォーマンス低下が続く場合は自己判断で継続しない:強い倦怠感や集中力低下、パフォーマンスの著しい悪化が長期間続く場合は、無理に継続せず医療機関や専門家への相談を優先してください。
まとめ:「脂肪を使えるようになる」と「速くなる」は別問題である
水曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。
- Vol.1:スクワットの「常識」の多くは個体差を無視している
- Vol.17:アイシングは目的次第で最適解が変わる
- Vol.18:プロテインタイミングより総摂取量の方がはるかに重要である
- Vol.19:糖質制限は「痩せる」と「強くなる」で最適解が真逆になり得る
次週Vol.20では、「オーバートレーニングの常識を疑え。休養日ゼロが強さの証ではない理由」を解説します。今回の「目的で判断を分ける」という視点を、トレーニング頻度の設計に応用する内容です。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
「脂肪を使えるようになる」と「速くなる」は別問題。目的をはっきりさせてから食事法を選ぶって大事だね🐾
オレはドッグフードの糖質を気にしたことがないんだが、犬にも同じ話は当てはまるのか?🐾
小太郎、それは獣医さんの領域よ。来週Vol.20は「オーバートレーニングの常識を疑え」。休養日ゼロが強さの証ではない理由を解説するわ。🐾










