【月曜連載17】医療現場が教えるカラダの真実|手術跡・瘢痕組織と可動域制限——医療現場が教える「癒着」のリアル|LiAiL

2026.09.07

パパ、お客様が「手術してから傷は塞がったのに、なんか関節の動きが硬いままなんだよね」って言ってたんだけど、傷が治ったら動きも元に戻るんじゃないの?🐾

ムース、それは「皮膚の傷が塞がる」ことと「深部組織が滑らかに動く」ことが別問題だからよ。手術跡の下では「癒着」という現象が起きているの。パパ、手術現場で見てきた瘢痕組織のリアルを語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.16では「脳震盪と運動」についてお伝えしました。今週Vol.17は、月曜シリーズの原点である手術現場での経験に立ち返り、「手術跡・瘢痕組織と可動域制限——医療現場が教える『癒着』のリアル」を解説します。

(👉 【月曜連載Vol.16】脳震盪と運動はこちら
(👉 【月曜連載Vol.5】人工関節置換術後のリハビリはこちら
(👉 【月曜連載Vol.7】腱・靭帯の修復と運動はこちら

「傷跡が塞がったから手術は完了」「見た目がきれいになったから中も治っている」——これは多くの患者さんが抱く自然な感覚です。しかし手術現場で見てきた真実は、皮膚の下では全く別のドラマが進行しているということです。


1. 「癒着」とは何か——組織同士がくっついてしまう現象

手術やケガによって組織が損傷すると、その修復過程で瘢痕組織(コラーゲン線維で構成される修復組織)が形成されます。本来、筋肉・腱・神経・皮下組織はそれぞれが独立して滑らかに滑走することで関節の可動域が保たれていますが、瘢痕組織がこれらの層をまたいで無秩序に結合してしまう現象が「癒着(ゆちゃく)」です。

皮膚の傷が塞がるのは受傷後数週間程度ですが、深部組織のコラーゲンが成熟し、癒着のリスクが本格的に固定化していくのは受傷後数ヶ月にわたるプロセスです。「見た目が治った」タイミングと「深部組織が正常に機能する」タイミングには、大きなズレがあることを理解しておく必要があります。


2. 癒着が引き起こす「4つの機能障害」

関節可動域の制限

関節周囲の腱や靭帯、関節包に癒着が生じると、関節を動かすたびに組織同士が引っ張り合い、可動域が制限されます。人工関節置換術後(Vol.5)や靭帯再建術後(Vol.7)のリハビリで「早期からの他動運動」が重視される最大の理由は、瘢痕組織が成熟する前に関節を動かし続けることで、この癒着の固定化を防ぐためです。

筋の滑走障害——「筋肉が骨や周辺組織に貼り付く」現象

筋肉は本来、隣接する筋肉や骨膜との間を滑らかに滑走しながら収縮・弛緩します。手術部位の癒着により筋の滑走性が失われると、筋力自体は回復していても、動作全体がぎこちなく、非効率な力の伝達になることがあります。

神経の絞扼——痛み・しびれの遷延

Vol.8で解説した末梢神経は、周囲組織との間を滑走しながら走行しています。瘢痕組織が神経周囲に形成されると、神経が物理的に圧迫・牽引され、術後しばらく経っても痛みやしびれが残る原因となることがあります。これは神経自体の損傷というより、周囲組織との癒着による二次的な問題であるケースが少なくありません。

腹部・骨盤内の癒着——臓器機能への影響

開腹手術後には、腸管同士や腸管と腹壁の間に癒着が生じることがあり、これが腸閉塞(イレウス)の原因となる場合があります。Vol.9で解説した「がん術後の早期離床」が推奨される理由の一つも、体を動かすことで腹腔内の癒着形成を最小限に抑える狙いがあります。

📚 専門的エビデンス
Chan RK, et al. “Scar Formation, Cutaneous Wound Repair, and Fibrosis.” Advances in Wound Care, 2017.
PubMedで詳しく見る

本総説は瘢痕形成のメカニズムを整理したレビュー論文で、コラーゲンの沈着と再構築が受傷後長期間にわたって続くプロセスであることを解説しています。皮膚の見た目の治癒と深部組織の機能回復が時間的にずれることを裏付ける知見として、術後リハビリの現場で広く参照されています。


3. LiAiL式「癒着を最小限に抑える5つの介入」

  1. 担当医の許可のもと、早期から関節を動かす:Vol.5で解説した早期可動域訓練は、癒着予防の観点からも重要です。安静にしすぎることが、かえって癒着を固定化させます。
  2. 瘢痕部位の柔軟性を保つケアを行う:創部が安定した段階で、担当医や理学療法士の指導のもとで行う瘢痕マッサージは、皮膚と深部組織の滑走性維持に役立つとされています。自己判断で創部に強い刺激を加えることは避けます。
  3. 可動域だけでなく「滑走性」も評価する:関節が曲がるかどうかだけでなく、動作中に引っかかりや突っ張り感がないかを確認します。違和感が続く場合は、理学療法士による評価を受けることが推奨されます。
  4. 術後の炎症コントロールを丁寧に行う:過度な炎症の遷延は瘢痕組織の過剰形成につながる可能性があります。医師の指示に従った創部管理・アイシングなどの炎症対策を丁寧に行います。
  5. 痛み・しびれ・可動域制限が長引く場合は専門医に相談する:「時間が経てば治る」と自己判断せず、症状が数ヶ月単位で続く場合は、癒着や神経絞扼の評価を受けることが重要です。術後のリハビリ内容・進め方は、必ず担当医・理学療法士の指導のもとで行ってください。

まとめ:「傷が塞がる」と「機能が戻る」は別のタイムラインで進む

月曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1〜5:脂肪・姿勢・脊椎・心臓・関節——手術現場が教える体の構造的真実
  • Vol.6〜8:骨・腱靭帯・神経——組織修復と力学的刺激の関係
  • Vol.9〜14:がん・透析・糖尿病・妊娠・高齢者——制約のある体を支える運動設計
  • Vol.15〜16:スポーツ復帰は「痛み・症状がない」だけでは判断できない
  • Vol.17:「傷が治った」の先に癒着という見えないプロセスがある

次週Vol.18では、「むくみ(浮腫)の正体——医療現場が教えるリンパと静脈の機能不全」を解説します。手術後だけでなく日常的にも起こりやすい「むくみ」を、生理学的な視点から掘り下げます。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら

(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「傷が塞がる」と「機能が戻る」が別のタイムラインだなんて、患者さんにはあまり知られていないよね。すごく大事な視点だと思う🐾

腸の癒着が腸閉塞につながるって初めて知った……早期離床って血栓予防だけじゃなかったんだな🐾

小太郎、その通りよ、Vol.9とも繋がっているの。来週Vol.18は「むくみ(浮腫)の正体」——リンパと静脈の機能不全を解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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