【火曜連載17】女性ホルモンと体型の科学|女性ホルモンと運動パフォーマンス|月経周期を活かしたトレーニング設計|LiAiL

2026.09.08

パパ、前回は自己免疫疾患の話だったけど、今日はトレーニング設計なの?「排卵期は筋力が上がる」ってSNSでよく見るけど、あれって信じていいの?🐾

実はそこ、業界で「常識」のように語られている割に、科学的な裏付けは思ったより弱いのよ。パパ、パワーリフティング経験者としての実感も交えて、正直なところを説明してあげて。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.16では「エストロゲンと自己免疫疾患」についてお伝えしました。今週Vol.17は、20,000セッションを超える指導とパワーリフティング経験者としての実感の両方から、「女性ホルモンと運動パフォーマンス。月経周期を活かしたトレーニング設計」を解説します。

(👉 【火曜連載16】エストロゲンと自己免疫疾患はこちら
(👉 【火曜連載02】月経周期の4フェーズと代謝変動はこちら
(👉 【火曜連載13】女性ホルモンと睡眠の質はこちら

「排卵期は筋力が上がる」「黄体期は追い込んではいけない」——フィットネス業界で広く語られる「周期別トレーニング」ですが、最新の科学的レビューは、その根拠に厳しい評価を下しています。


1. 「周期に合わせたトレーニング」は本当に効果があるのか

Vol.2で解説した通り、月経周期は卵胞期・排卵期・黄体期などのフェーズごとにエストロゲン・プロゲステロンの濃度が変動します。この変動を根拠に、「エストロゲンが高い卵胞後期(排卵前)に高強度トレーニングを集中させ、プロゲステロンが優位な黄体期は強度を落とす」という周期同期型トレーニング(サイクルシンキング)が、近年フィットネス業界で広く提唱されています。

一見合理的に聞こえるこの理論ですが、果たしてどの程度の科学的根拠があるのでしょうか。


2. 科学が示す実際のデータ。「トリビアルな差」という結論

📚 専門的エビデンス
Colenso-Semple LM, D’Souza AC, Elliott-Sale KJ, Phillips SM. “Current evidence shows no influence of women’s menstrual cycle phase on acute strength performance or adaptations to resistance exercise training.” Frontiers in Sports and Active Living, 2023.
PubMedで詳しく見る

月経周期フェーズとレジスタンストレーニングの急性パフォーマンス・長期適応(筋力・筋肥大)に関する既存のメタアナリシス・システマティックレビューを横断的に検証した「アンブレラレビュー」です。レビュー間で結果が大きくばらつき、効果が見られた場合でも効果量はごくわずか(トリビアル)でした。さらに、対象となった研究の多くで月経周期フェーズの検証方法(ホルモン測定ではなくカレンダー計算のみ等)が不十分であることも指摘されており、著者らは「短期的なホルモン変動が急性パフォーマンスや長期的な筋力・筋肥大適応に意味のある影響を与えると結論づけるのは時期尚早である」と述べています。

つまり、「排卵期に高強度、黄体期は低強度」という一般化されたルールを、すべての女性に当てはめる科学的根拠は現時点では十分ではありません。もっともらしい理論と、実際に検証された質の高いデータとの間には、まだ大きなギャップがあるのが実情です。


3. なぜ「効果があるように感じる」のか。方法論の限界と個人差

それでも「黄体期はしんどい」と実感する女性が多いのも事実です。これは矛盾ではありません。Vol.11で解説した関節弛緩、Vol.13で解説した睡眠の質の変化などは、ホルモン濃度そのものよりも自覚症状の強さと関連することが繰り返し示されてきました。「客観的なパフォーマンス(挙上重量など)」と「主観的なしんどさ(RPE:自覚的運動強度)」は、必ずしも同じ動きをするとは限りません。

また、これまでの研究の多くが、実際にどのフェーズにいたかを唾液・血液中のホルモン測定ではなく、カレンダー計算だけで推定していたという方法論上の弱さも見過ごせません。「周期は結果に影響しない」と断言することもまた時期尚早であり、正しい姿勢は「まだ十分に検証されていない」というニュートラルな理解です。


4. LiAiL式「周期を活かしたトレーニング設計」5つの視点

  1. 「絶対法則」としての周期別ピリオダイゼーションは採用しない:現時点のエビデンスレベルは低く、全員に当てはまる一般化されたルールとして扱うべきではない。
  2. 集団平均ではなく自分自身のデータを記録する:周期・体調・挙上重量・RPEを記録し続けることで、「自分にとって」意味のあるパターンがあるかどうかを、思い込みではなく実データで判断する。
  3. 重量よりRPEで強度を調整する日を作る:主観的なしんどさが強い日は、絶対重量に固執せず自覚的運動強度を基準に負荷を調整する柔軟性を持たせる。
  4. 継続性(コンシステンシー)を最優先する:周期を理由に頻繁にトレーニングを休止・大幅減量することは、長期的な適応にとってエビデンス不足な理論よりもマイナスの影響が大きい可能性がある。
  5. 著しい周期性の不調は基礎疾患も疑う:毎周期特定の時期に極端なパフォーマンス低下がある場合、Vol.9のPCOSやVol.8の甲状腺機能異常など、基礎疾患が背景にある可能性もある。気になる症状がある場合は自己判断せず婦人科医に相談してください。

まとめ。周期別トレーニングは「まだ検証途中の理論」である

火曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1:エストロゲンと脂肪分布の真実
  • Vol.2:月経周期の4フェーズと代謝変動
  • Vol.3:プロゲステロンと食欲の暴走
  • Vol.4:更年期前後のホルモン変化と体型崩れ
  • Vol.5:活性型ビタミンDとエストロゲンの関係
  • Vol.6:レプチンとエストロゲンの逆フィードバック
  • Vol.7:コルチゾールと女性の体型
  • Vol.8:甲状腺ホルモンと代謝
  • Vol.9:PCOSとインスリン抵抗性
  • Vol.10:テストステロン・DHEAと女性の筋肉量
  • Vol.11:妊娠・産後のホルモン変化と体型
  • Vol.12:授乳期のホルモンと体型変化
  • Vol.13:女性ホルモンと睡眠の質
  • Vol.14:女性ホルモンと肌質の変化
  • Vol.15:経口避妊薬(ピル)とホルモンの科学
  • Vol.16:エストロゲンと自己免疫疾患
  • Vol.17:女性ホルモンと運動パフォーマンス

次週Vol.18では、「エストロゲンと心血管疾患。閉経後にリスクが上がる理由」を解説します。閉経を境に女性の心血管リスクがどう変化するのかをお伝えします。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「排卵期に高強度」って断言してるSNS投稿、結構見るけど、あれは言い過ぎだったんだね!🐾

「効果なし」の証明じゃなく「まだ分かってない」ってところが誠実だな。断言しないのがLiAiLらしいぜ🐾

小太郎、その通りよ。来週Vol.18は「エストロゲンと心血管疾患」。閉経後にリスクが上がる理由を解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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