【月曜連載09】医療現場が教えるカラダの真実|がん術後と運動—外科医が「安静にするな」と言う本当の理由|LiAiL

2026.07.13

パパ、お客様のご家族がガンの手術を受けたんだけど、「手術の翌日から歩かされた」って驚いてたんだ。昔は「絶対安静」って言われてたのに、今は違うの?🐾

それは「早期離床(ERAS:術後回復力強化プログラム)」という現代外科の標準プロトコルよ。パパは数百件の手術現場に立ち会ってきたから、外科医が「安静にするな」と言う本当の理由を語れるはずよ。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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13年間の製薬・医療機器業界での勤務の中で、私は数百件以上の手術現場に立ち会ってきました。その中でも消化器外科・呼吸器外科の現場で必ず耳にしたのが「離床を急ぎましょう」という一言です。今週Vol.9は、月曜シリーズこれまでの脊椎・心臓・関節・骨折・腱靭帯・神経の話を踏まえ、「がん術後と運動——外科医が『安静にするな』と言う本当の理由」を解説します。

(👉 【月曜連載Vol.8】神経修復と運動はこちら
(👉 【月曜連載Vol.6】骨折後のリモデリングと運動はこちら
(👉 【月曜連載Vol.4】心臓手術現場から学ぶ運動の真実はこちら

「がんの手術をしたのに、なぜ翌日から歩かせるのか」「安静にしていた方が体力の消耗を防げるのではないか」——これは多くのご家族が抱く自然な疑問です。しかし現代のがん医療において、この「常識」はすでに医学的に否定されています。


1. なぜ「絶対安静」は間違いだったのか——ERASプロトコルが変えた術後医療

かつての外科医療では「術後は数日間ベッド上で安静に」という指導が一般的でした。しかし1990年代以降、デンマークの外科医Henrik Kehletらが提唱したERAS(Enhanced Recovery After Surgery:術後回復力強化プログラム)の普及により、この常識は大きく転換しました。

ERASの中核にあるのが「早期離床(Early Mobilization)」です。多くのプロトコルでは、消化器外科手術後の場合、術後24〜48時間以内に座位・立位・歩行を開始することが標準的な目標とされています。私が立ち会った手術現場でも、執刀医が病棟スタッフに「今日中に一度は座らせて」と指示する場面を何度も目にしました。


2. 安静が引き起こす「4つの合併症リスク」

深部静脈血栓症(DVT)・肺血栓塞栓症

下肢を動かさない状態が続くと、ふくらはぎの「筋ポンプ作用」が働かず静脈血がうっ滞します。これが血栓を形成し、肺に飛んで肺血栓塞栓症という致命的な合併症を引き起こすことがあります。がん患者は血液凝固能が亢進しやすいため、このリスクは非がん患者よりも高いことが知られています。歩行による下肢の筋収縮こそが、最も確実な血栓予防策の一つです。

無気肺・術後肺炎

ベッド上で浅い呼吸が続くと、肺の奥(肺底部)が十分に膨らまず無気肺を起こしやすくなります。座位・立位をとるだけで横隔膜の動きが改善し、深い呼吸が可能になります。呼吸器外科の現場では、全身麻酔からの回復直後にインセンティブスパイロメーター(呼吸訓練器)を使わせる光景が日常的でした。

筋力低下・サルコペニアの加速

健康な人でも、完全な安静状態が続くと骨格筋量は1週間でおよそ1〜1.5%失われるという報告があります。がん患者はもともと炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)の上昇により筋タンパク分解が進みやすい「がん性カヘキシア」の状態にあることが多く、安静はこの筋肉減少をさらに加速させます。木曜Vol.4で解説した成長ホルモン分泌の低下とも連動し、回復力そのものを弱めてしまいます。

腸管麻痺(イレウス)の遷延

腹部手術後は一時的に腸の蠕動運動が止まる「術後イレウス」が起こりますが、身体を動かすことで腸管の蠕動が刺激され、正常な排ガス・排便の再開が早まることが臨床的に広く認識されています。早期離床はこの回復を助け、入院期間の短縮にもつながります。

📚 専門的エビデンス
Meyerhardt JA, et al. “Physical Activity and Survival After Colorectal Cancer Diagnosis.” Journal of Clinical Oncology, 2006.
PubMedで詳しく見る

本研究は大腸がん診断後の身体活動量と生存率の関係を追跡した代表的なコホート研究であり、活動量が高い群ほどがん特異的死亡リスクが低いことを示しました。がん術後・診断後の運動が「体力を消耗させるもの」ではなく「予後を改善する介入」であることを示す根拠として、ASCO(米国臨床腫瘍学会)とACSM(米国スポーツ医学会)が2019年に共同で発表した運動ガイドライン(Campbell KL, et al., Medicine & Science in Sports & Exercise)でも同様の知見が総括されています。


3. LiAiL式「がん術後の回復を支える5つの介入」

  1. 術後24〜48時間以内の早期離床を恐れない:担当医・執刀医の許可のもと、まずは座位、次に立位、そして数メートルの歩行から始めます。「動けるのに動かない」ことが最大のリスクであると理解することが第一歩です。
  2. 呼吸筋トレーニングを併用する:腹式呼吸やインセンティブスパイロメーターによる深呼吸練習は、無気肺予防と離床時の体力回復を同時に支えます。
  3. 低強度レジスタンストレーニングで筋量を守る:ベッド上でもできる足首の背屈・底屈運動や、椅子からの立ち座り動作から始め、カヘキシアによる筋肉減少に対抗します。除脂肪体重1kgあたり1.2〜1.5gのタンパク質摂取を並行させることが望ましいとされています。
  4. 歩行距離を段階的に伸ばす:1日目は病室内、2日目は病棟内、3日目以降は階段へと、痛みと体調に応じて無理なく距離を伸ばします。焦らず「昨日より少し」を積み重ねることが原則です。
  5. 主治医・腫瘍医との連携を必須とする:運動の可否・強度は病期、治療フェーズ(術後・化学療法中・放射線治療中)、血液データによって大きく異なります。自己判断で運動を進めるのではなく、必ず主治医の許可のもとで実施してください。

まとめ:「安静」は保護ではなく、リスクである

月曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1〜3:脂肪・姿勢・脊椎——手術現場が教える体の構造的真実
  • Vol.4〜5:心臓・関節——術後リハビリの設計思想
  • Vol.6〜8:骨・腱靭帯・神経——組織修復と力学的刺激の関係
  • Vol.9:がん術後は「安静」より「早期離床」が予後を決める

次週Vol.10では、「化学療法・放射線治療中の運動——治療効果を高める『動き』の科学」を解説します。手術という一点だけでなく、治療期間全体を通じて運動がどのように体を守るのかを深掘りします。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「安静は保護ではなく、リスクである」——このメッセージ、術後のご家族にすごく届くと思う!血栓予防のために歩くって知らなかった🐾

オレも入院したら絶対安静を主張しそうだ……。でも本当に必要なのは「動かないと悪化する」って理解することなんだな🐾

小太郎、それは正しい理解よ。来週Vol.10は「化学療法・放射線治療中の運動」——治療そのものと運動の関係を最新論文で解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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