【土曜連載20】強く・美しく・動ける体を作る科学|水分補給とパフォーマンスの科学|LiAiL
パパ、お客さんが「喉が渇いたら飲めばいいんでしょ?」って言ってたんだけど、それだと遅いって聞いたことがあるんだけど本当?🐾
本当よ。実は体重のわずか1.5%程度の水分減少でも、最大挙上重量に影響が出るという研究があるの。パパ、記念すべきVol.20——脱水の境界線を語りなさい。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
おかげさまで土曜連載も今回でVol.20を迎えます。パワーリフティング競技者として、計量前後の体重管理でも「水分」は常に神経を使うテーマです。20,000本以上のセッションでも、水分補給を意識できていないお客様のパフォーマンスが日によって大きくブレるケースを何度も見てきました。
今回のVol.20では、脱水が具体的に体重の何%から筋力・パワーに影響し始めるのかを科学的に整理します。
(👉 【土曜連載Vol.11】ピーキングとテーパリングの科学はこちら)
(👉 【土曜連載Vol.19】アナボリックウィンドウの科学はこちら)
(👉 【土曜連載Vol.9】ピリオダイゼーション(期分け)の科学はこちら)
「喉が渇いたら飲む」では、実はすでにパフォーマンスが低下し始めた後であることが少なくありません。
1. 「喉が渇いてから飲む」では遅い——脱水と身体機能の関係
喉の渇きという感覚(口渇感)は、体内の水分バランスが崩れてからしばらく時間が経ってようやく現れる指標です。「渇きを感じてから飲む」戦略は、すでに水分不足の影響がパフォーマンスに及んでいる段階からのスタートになりがちです。
脱水は血液量の減少を通じて、筋肉への酸素・栄養供給、体温調節、神経伝達など複数の機能に同時に影響します。筋力・パワー・持久力それぞれで、影響が現れ始める体重減少率にはある程度の目安があります。
2. 科学的根拠——体重の何%減少から、何が起きるのか
① わずか1.5%の脱水でもベンチプレス1RMに影響
Schoffstall JE, et al.(2001)の研究では、ウエイトトレーニング経験のある男性10名を対象に脱水状態でベンチプレス1RMを測定したところ、体重のわずか1.5%の水分減少でも1RMパフォーマンスが有意に低下することが確認されました。この低下は、水分補給と2時間の休息によって回復したことも報告されています。
② 3〜4%の脱水で筋力−2%、パワー−3%、高強度持久力−10%
Judelson DA, et al.(Sports Medicine, 2007)の系統的レビューでは、体重の3〜4%に相当する脱水によって、筋力は約2%、パワーは約3%、30秒〜2分の高強度運動における持久的能力は約4〜10%低下することが示されています。パワーリフティングのように瞬発的な力を要する種目ほど、実は脱水の影響を過小評価されがちであることが分かります。
③ メタ分析でも筋力−5.5%、無酸素性パワー−5.8%と確認
Savoie FA, et al.(2015)が複数の研究を統合したメタ分析では、脱水状態は筋力を平均5.5±1.0%(p<0.05)、無酸素性パワーを平均5.8±2.3%低下させることが示されました。研究によって数値に幅はあるものの、「脱水は確実にパフォーマンスを下げる」という結論は一貫しています。
📚 専門的エビデンス
Judelson DA, Maresh CM, Anderson JM, et al. “Hydration and muscular performance: does fluid balance affect strength, power and high-intensity endurance?” Sports Medicine, 2007.
PubMedで詳しく見る
本レビューは水分バランスと筋力・パワー・高強度持久力の関係を包括的に整理した代表的な文献です。体重減少率ごとに、どの身体機能がどの程度影響を受けるかを定量的に示しており、実践的な水分補給の目安を立てる上で重要なエビデンスとなっています。
3. LiAiLが実践する水分補給設計
実際の指導では、トレーニング前後の体重変化を目安に水分補給量を調整します。Vol.14で解説したバルサルバ手技を使う高強度セットでは体幹への血流・圧力管理も重要になるため、脱水状態でのバルサルバ手技はより負担が大きくなる可能性があります。
また、Vol.11のテーパリング期や計量を伴う競技の場合、意図的な水分操作が行われることもありますが、本記事で紹介したデータの通り過度な脱水はパフォーマンスを大きく損なうため、専門知識に基づいた慎重な管理が必須です。女性クライアントの場合、月経周期のホルモン変動によって体内の水分保持量が変わることも火曜連載Vol.2で解説した通りで、日によって「同じ体重でも水分状態が違う」ことを念頭に置くと良いでしょう。(👉 【火曜連載Vol.2】月経周期の4フェーズと代謝変動はこちら)
LiAiL式「水分補給を正しく設計する5つの科学的介入」

- 喉が渇く前に、こまめに飲む習慣をつける:トレーニング中は15〜20分おきに少量ずつ水分を摂ることを意識します。
- トレーニング前後の体重変化を目安にする:体重減少が体重の1〜2%を超えないよう、発汗量の多い環境では特に注意します。
- 長時間・高強度のセッションでは電解質も補う:水だけでなく、ナトリウムなどの電解質補給も汗の量が多い日には検討します。
- 大会・大事なセッション前日から意識的に水分を確保する:直前の一気飲みでは体内に十分に保持されないため、前日からの積み重ねが重要です。
- 計量を伴う競技の水分操作は専門家の管理下で行う:過度な脱水は健康リスクとパフォーマンス低下の両面で危険が大きいため、自己流での実施は避けます。
※過度な水分制限や過剰な水分摂取(水中毒)はどちらも健康上のリスクがあります。持病がある方、計量を伴う競技に取り組む方は、必ず専門家の指導のもとで水分管理を行ってください。
まとめ:「たかが水分」がパフォーマンスを左右する
土曜連載Vol.1〜20の流れを振り返ります。
- Vol.1:神経系が重量を支配する
- Vol.2:セット数・レップ数が筋肥大を決める
- Vol.3:下ろす動作(エキセントリック)が筋肉を育てる
- Vol.4:メカニカルテンションと代謝ストレスが相乗する
- Vol.5:漸進性過負荷が成長の絶対条件
- Vol.6:レップ帯ごとに効果が異なる
- Vol.7:インターバルが筋力・筋肥大を左右する
- Vol.8:頻度が回復と成長のバランスを決める
- Vol.9:期分けが全ての要素を年間設計にまとめる
- Vol.10:オートレギュレーションが設計図を現場で機能させる
- Vol.11:ピーキングとテーパリングが疲労を記録に変換する
- Vol.12:リカバリー手段は目的に応じて選ぶべきもの
- Vol.13:ストレッチはタイミングで味方にも敵にもなる
- Vol.14:呼吸が脊柱を支える天然のベルトになる
- Vol.15:止まる場所には生体力学的な理由がある
- Vol.16:可変抵抗で弱点を狙い撃つことができる
- Vol.17:筋肉痛は成長の証明ではなく回復のサイン
- Vol.18:サプリメントは成分ごとに根拠の強さが全く違う
- Vol.19:タイミングより総摂取量が筋肥大を左右する
- Vol.20:わずかな脱水でも筋力・パワーは低下する
次週Vol.21では、「電解質とナトリウムの科学——水だけ飲めばいいわけではない理由」を解説します。水分補給の次は、「何を一緒に摂るべきか」という一歩踏み込んだテーマです。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムースとウメを娘のように愛する、誠実な伴走者。
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
Vol.20達成おめでとう!1.5%の脱水で1RMに影響って、体重60kgなら900gだよ……そんな少しの差でパフォーマンスが変わるなんて驚き🐾
オレも夏の散歩の後、水をがぶ飲みしちゃうんだが、あれは「渇いてから」だから遅いってことか……🐾
小太郎、それは合ってるわ。来週Vol.21は「電解質とナトリウムの科学」——水だけ飲めばいいわけではない理由を解説するわ。🐾











