【水曜連載07】プロアスリートの技術を一般に|肩関節インピンジメント—投球・懸垂・オーバーヘッドプレスで肩を壊さないプロの技術|LiAiL

2026.06.24

パパ、ベンチプレスや懸垂をすると肩の前側がいつも痛くなる人がいるんだけど……これって肩が弱いだけの問題なの?🐾

「肩が弱い」のではなく「肩甲骨の動きと腱板のスペースが不足している」インピンジメントの問題よ。プロの投手・体操選手・ウェイトリフターが何百回も肩を上げても痛めない理由がある。パパ、その解剖学的真実を語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.6では足関節背屈制限がスクワット・着地・スプリントを破壊するメカニズムを解説しました。今週Vol.7は、胸椎(Vol.5)・足関節(Vol.6)に続く上肢の主要モビリティジョイント——「肩関節インピンジメント:投球・懸垂・オーバーヘッドプレスで肩を壊さないプロの技術」を解説します。

(👉 【水曜連載Vol.6】足関節背屈制限はこちら
(👉 【水曜連載Vol.5】胸椎回旋とロータリー系スポーツはこちら
(👉 【日曜連載Vol.6】OKC・CKCの解剖学はこちら

「ベンチプレス・懸垂で肩の前が痛む」「腕を上げると引っかかる感じがする」「オーバーヘッドプレスで肩がつまる」——これら全て、「肩関節インピンジメント(衝突症候群)」という、肩甲骨の動きと腱板スペースの問題です。「肩が弱い」「フォームが悪い」という安易な結論の前に、解剖学的な真因を理解する必要があります。


1. 肩関節インピンジメントとは何か——「狭いトンネル」を腱が通り抜ける構造

肩関節インピンジメント(衝突症候群)とは、肩峰下腔(肩甲骨の肩峰と上腕骨頭の間の狭いスペース)で腱板(特に棘上筋腱)や滑液包が圧迫・摩擦される状態です。この肩峰下腔は通常わずか9〜10mm程度しかない非常に狭い構造です。

腕を真上に上げる動作(屈曲・外転)では、上腕骨頭が肩峰の下を移動するため、このスペースが一時的にさらに狭くなります。この狭いスペースを「いかに広く保って腱を通すか」が、肩を痛めずにオーバーヘッド動作を行う全ての鍵です。


2. インピンジメントを引き起こす「2つの根本原因」

肩甲骨上方回旋の不足——「スペースを作る」動きの欠落

腕を上げる際、健全な肩関節では肩甲骨が上方回旋(外側に回転して肩峰を持ち上げる動き)し、肩峰下腔のスペースを能動的に確保します。これを「肩甲上腕リズム」と呼び、腕の上げる角度180°に対して肩甲骨が約60°、上腕骨が約120°回転するのが理想比率です。

デスクワーク・スマートフォン使用による前方頭位・円背姿勢(猫背)は、僧帽筋下部・前鋸筋の機能低下を引き起こし、肩甲骨上方回旋が不足します。結果として腕を上げるたびにスペースが確保されず、腱板が肩峰に衝突します。

腱板(ローテーターカフ)の機能不全——上腕骨頭の安定化失敗

腱板(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)は上腕骨頭を関節窩の中心に保つ「安定化システム」です。腱板の機能が低下すると、三角筋の収縮時に上腕骨頭が上方に偏位(migration)し、肩峰下腔をさらに狭めます。特に棘下筋・小円筋(外旋筋群)の弱化が、デスクワーカー・水泳選手・投球選手に共通して見られる問題です。

📚 専門的エビデンス
Kibler WB, et al. “Scapular Dyskinesis and Its Relation to Shoulder Injury.” Sports Health, 2012.
PubMedで詳しく見る

肩甲骨の異常運動(スキャプラジスキネジア)と肩関節傷害の関連を包括的に解説した論文です。肩甲骨の上方回旋不足・前鋸筋機能低下が肩峰下インピンジメント・腱板損傷のリスクを直接高めることを示しており、「肩甲骨の動きが肩の安全性を決める」という本記事の核心的主張の直接的エビデンスです。


3. LiAiL式「肩を壊さない4つの評価&改善プロトコル」

【セルフ評価】ペインフルアークテスト

腕を体側からゆっくり真上に上げていき、60〜120°の範囲で痛みが出るかを確認します。この範囲はちょうど腱板が肩峰下を通過するタイミングと一致するため、ここで痛みが出る場合はインピンジメントの可能性が高いと判断します。180°近くで痛みが消える場合も典型的なパターンです。

【介入①】前鋸筋・僧帽筋下部の強化——肩甲骨上方回旋の再構築

サーフェイススライド(壁に向かって両腕をW字からY字に滑らせる運動)プルアパート(ゴムバンドを両手で持って肩甲骨を寄せる運動)を組み合わせます。各15〜20回×3セット。これにより肩甲骨の上方回旋を能動的に作る筋力を再教育します。

【介入②】外旋筋群(棘下筋・小円筋)の強化——上腕骨頭の安定化

サイドライング外旋(横向きに寝て肘を90°に固定し前腕を持ち上げる)またはバンド外旋を行います。軽い負荷(500g〜2kg程度)で15〜20回×3セット。腱板は小さな筋肉のため、高重量での強化は不適切で、低負荷高回数が原則です。

【介入③】オーバーヘッド種目のフォーム修正——インピンジメントを避ける軌道

ベンチプレス・懸垂・オーバーヘッドプレスでは、肩関節を完全に内旋させたまま屈曲・外転させる軌道を避けることが重要です。具体的にはベンチプレスでの肘の過度な開き(肩90°外転位)、懸垂での肩のすくみ(シュラッグなしのデッド・ハング多用)が典型的な誤りです。肩甲骨を下制・後退させた状態を維持してから動作を開始する「セットアップ」が、プロのウェイトリフター・体操選手が共通して行う技術です。


まとめ:肩を守るのは「力」ではなく「肩甲骨が作るスペース」——プロが何千回投げても壊れない理由

水曜シリーズの流れを振り返ります。

  • Vol.1:肩甲骨の機能解剖——スポーツ障害を防ぐ真の安定化
  • Vol.4:股関節モビリティとFAI——スクワット・スプリントの根本を変える
  • Vol.5:胸椎回旋——ロータリー系スポーツのパワーが出ない本当の理由
  • Vol.6:足関節背屈制限——スクワット・着地・スプリントを破壊するアキレス腱と距骨の問題
  • Vol.7:肩関節インピンジメント——肩甲骨が作るスペースと腱板の安定化

次週Vol.8では、「肘・手首の障害予防——テニス肘・ゴルフ肘・手根管症候群を防ぐ前腕の科学」を解説します。肩(Vol.7)からつながる前腕の力学的連鎖を完全解剖します。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムースとウメを娘のように愛する、誠実な伴走者。

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