【水曜連載23】プロアスリートの技術を一般に|筋肉痛の常識を疑え|LiAiL

2026.10.14

パパ、お客さんが「今日は筋肉痛が全然ないから、昨日のトレーニングは効いてなかったのかも」って落ち込んでたんだけど、筋肉痛がないと効いてないの?🐾

ムース、それは「筋肉痛=効いた証拠」という思い込みね。レビュー論文でも、筋肉痛は筋肥大の確かな指標とは言えないと整理されているの。パパ、その真実を語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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22,000セッションを超える指導の中で、「筋肉痛が出なかったので、今日のトレーニングは失敗でしょうか」というご相談を、初心者の方から経験者の方まで数え切れないほどいただいてきました。逆に「筋肉痛が強く出ると、頑張った実感が得られて安心する」という声も同じくらい多いものです。今週Vol.23のテーマは、「筋肉痛の常識を疑え。筋肉痛がないと効いていないは本当か」です。

(👉 【水曜連載Vol.16】ウォームアップの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.17】クールダウンの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.20】オーバートレーニングの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.22】体幹トレーニングの常識を疑えはこちら)

先に結論をお伝えします。筋肉痛は、トレーニングで筋肉に何らかの負荷がかかったことを示す場合はあります。しかし、筋肉痛の有無や強さで「効いたかどうか」を判断するのは、あまり信頼できる方法ではありません。


1. 筋肉痛(DOMS)とは何か。なぜ「効いた証拠」と信じられてきたのか

トレーニングの数時間後から翌日以降に感じる筋肉の痛みは、遅発性筋肉痛(DOMS:Delayed Onset Muscle Soreness)と呼ばれます。一般に運動の数時間後から感じ始め、2日後前後にピークを迎えることが多いとされています。

そのしくみは完全には解明されていませんが、筋肉や結合組織に生じた微細な損傷と、それに続く炎症反応が痛みを感じる神経を敏感にすることが関わっていると考えられています。損傷が起きるなら筋肉が成長するはずだ、という連想が働き、「筋肉痛=効いた証拠」「筋肉痛がない日は効いていない」という考え方が定着しました。

この連想は一見もっともらしく、実際に筋肉痛は何らかの負荷がかかったサインにはなり得ます。問題は、「筋肉痛が出た」ことと「筋肉が大きくなる刺激が十分だった」ことが、必ずしも一致しない点にあります。


2. 通説を覆すエビデンス。筋肉痛と筋肥大は別物である

この問いを正面から検討したのが、SchoenfeldとContreras(2013)のレビュー論文です。複数の研究を整理した結果、筋肉痛は筋損傷の大きさを正確に示す指標とは言えず、筋肥大の確かな指標でもないと結論づけています。損傷や筋肉痛は、筋肉の適応にとって必ずしも欠かせないものではないという趣旨です。

ここで押さえたい事実が3つあります。

  1. 筋肉によって筋肉痛の出やすさが大きく違う:ほとんど筋肉痛が出ない部位でも、しっかり筋肥大している例が報告されています。「筋肉痛が出ない部位は育っていない」とは言えません。
  2. 種目の性質で出やすさが変わる:筋肉が引き伸ばされた状態で強い張力がかかる種目や、ゆっくり下ろす動作(エキセントリック局面)は、筋肉痛を起こしやすいことが知られています。つまり筋肉痛の強さは、効果の大きさというより動作の性質を反映している面があります。
  3. 筋肥大が起きなくても筋肉痛は出る:下り坂のランニングのように、筋肥大にはあまり結びつかない活動でも強い筋肉痛が出ることがあります。

さらにDamasらの研究(2016)は、筋損傷と筋タンパク質合成の関係を10週間のトレーニング期間で追跡しました。トレーニング開始時、3週目、10週目の時点で、筋損傷と筋原線維タンパク質の合成(MyoPS)を測定しています。

結果として、筋損傷が最も大きかった開始時点ではMyoPSも最も高かったものの、そのどちらも最終的な筋肥大とは関連しませんでした。筋肥大と関連したのは、トレーニングに慣れて筋損傷が和らいだ後のMyoPSでした。トレーニング初期の強い損傷は、新しい刺激に対する修復の反応が中心で、それ自体が筋肥大のエンジンではない可能性を示しています。

なお、SchoenfeldとContreras(2013)は系統的レビューやメタ分析ではなく、論点を整理したナラティブレビューです。この結論を絶対的な定説として扱うのではなく、「筋肉痛の有無だけで効果を判断するのは根拠として弱い」という程度に受け止めるのが適切です。筋肉痛が無意味だと言っているわけでもありません。


3. 現場でよく見られる誤解。「筋肉痛を追いかける」ことの落とし穴

実際の指導現場で多いのは、筋肉痛が出なくなったことを不安がる経験者のお客様です。同じ種目を続けると筋肉痛が出にくくなるのは、反復バウト効果と呼ばれる自然な適応で、体がその刺激に慣れたサインです。うまく適応できている証拠であって、効果が止まったわけではありません。

この不安から、筋肉痛を取り戻そうとして種目をころころ変えたり、限界を超えて追い込んだりすると、次のような問題が起こりがちです。

  • 強い筋肉痛で次のセッションの出力が落ち、むしろ全体のトレーニング量が減る
  • 筋肉痛を理由に休養日が増え、トレーニングの継続性が崩れる
  • 回復が追いつかないまま追い込み続け、Vol.20で解説したオーバートレーニングの方向へ進む

また、Vol.17で解説した通り、筋肉痛を和らげたい一心で毎回アイシングをすると、筋肥大の面ではマイナスに働く場合があります。筋肉痛は結果を測る物差しではなく、あくまで副作用の一つとして扱う方が、長期的には賢い選択です。

📚 専門的エビデンス
Schoenfeld BJ, Contreras B. “Is postexercise muscle soreness a valid indicator of muscular adaptations?” Strength and Conditioning Journal, 2013;35(5):16-21.
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Damas F, Phillips SM, Libardi CA, et al. “Resistance training-induced changes in integrated myofibrillar protein synthesis are related to hypertrophy only after attenuation of muscle damage.” The Journal of Physiology, 2016;594(18):5209-5222.
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Schoenfeld & Contreras(2013)は、筋肉痛が筋損傷や筋肥大の確かな指標にならない理由を整理したナラティブレビューです。Damasら(2016)は、10週間のレジスタンストレーニングの開始時・3週目・10週目に筋損傷とMyoPSを測定し、損傷が最大の時期のMyoPSは筋肥大と関連せず、損傷が和らいだ後のMyoPSが筋肥大と関連することを報告しました。筋肉痛や筋損傷の大きさだけでトレーニングの効果を判断するのは難しいことを、複数の角度から示しています。


4. LiAiL式「筋肉痛に振り回されない5つの介入」

  1. 効果の判断は「記録」で行う:使用重量・回数・セット数を毎回記録し、数値で進歩を確認してください。例として、同じ重量で回数が1〜2回増える、または同じ回数で重量が2.5kg増えれば、筋肉痛の有無に関わらず前進と判断できます。
  2. 慣れた種目で筋肉痛が出なくても焦らない:反復バウト効果によるごく自然な変化です。筋肉痛を取り戻すために種目を頻繁に変えるのではなく、重量・回数・ボリュームの漸進的な向上を優先してください。
  3. 久しぶりの再開や新しい種目、エキセントリックを強調した種目は段階的に始める:これらは強い筋肉痛を招きやすい条件です。初回は余力を残し、数週間かけて強度を上げてください。回復設計の考え方はVol.20も参考になります。
  4. 筋肉痛が強い日は、軽い運動と睡眠で回復を促す:痛みの強い部位を無理に追い込まず、軽いウォーキングや自転車などのアクティブリカバリーを選びましょう。Vol.17で解説した通り、筋肥大を狙う時期は冷やしすぎない方が合理的です。
  5. 強い腫れ・尿の色が濃い・痛みが悪化し続ける場合は自己判断で継続しない:通常の筋肉痛は数日かけて徐々に和らいでいきます。強い腫れ、茶色っぽい尿、日を追うごとに痛みが悪化するといった場合は、通常の筋肉痛とは別の問題の可能性があります。トレーニングを中止し、速やかに医療機関へ相談してください。

まとめ:筋肉痛は「結果を測る物差し」ではなく「副作用の一つ」である

今回関連の深い過去の回を振り返ります。

  • Vol.17:アイシングは目的次第で最適解が変わる
  • Vol.20:休養日ゼロは根性の証ではなく、回復設計ができていないサインである
  • Vol.23:筋肉痛の有無ではなく、記録された進歩で効果を判断する

次週Vol.24では、「有酸素運動の常識を疑え。脂肪燃焼ゾーン神話の真実」を解説します。今回の「感覚ではなく数値で判断する」という視点を、有酸素運動の強度設定に応用する内容です。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「筋肉痛は物差しじゃなくて副作用の一つ」。筋肉痛が出なくて不安だった人、記録で見ればいいって分かると気が楽になるね🐾

オレは久しぶりに長い散歩をした翌日、足がバキバキだったんだが、あれも筋肉痛なのか?🐾

小太郎、それは久しぶりの運動による筋肉痛の典型例ね。来週Vol.24は「有酸素運動の常識を疑え」。脂肪燃焼ゾーン神話の真実を解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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