【日曜連載07】解剖・神経・筋膜レクチャー|関節モビリティとスタビリティの法則——痛みの場所と原因の場所は違う|LiAiL
パパ、理学療法士のお兄さんが「足首は動く関節、膝は安定する関節」って言ってたんだけど……関節ってそんな風に役割分担があるの?🐾
あるわ。「ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチ」よ。脊柱の足元から頭まで、関節は「モビリティ(可動性)」と「スタビリティ(安定性)」を交互に担う構造で配列されている。この法則を理解せずに痛みの原因を診断することは不可能。パパ、その全体像を語りなさい。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.6では開放性・閉鎖性運動連鎖(OKC・CKC)を解説しました。今週Vol.7は、日曜シリーズの集大成として——「関節モビリティとスタビリティの法則:なぜ『動く関節』と『安定する関節』が交互に並ぶのか」を解説します。これは理学療法・パフォーマンストレーニングの両分野で使われる「ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチ(Joint-by-Joint Approach)」の全体像です。
(👉 【日曜連載Vol.6】OKC・CKCの解剖学はこちら)
(👉 【水曜連載Vol.6】足関節背屈制限はこちら)
(👉 【水曜連載Vol.4】股関節モビリティとFAIはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.5】胸椎回旋はこちら)
「腰が痛いのに腰をストレッチしても良くならない」「膝が痛いのに膝のトレーニングをしても改善しない」——これらは痛みの出ている関節そのものではなく、隣接する関節のモビリティ不足が原因であることが非常に多いという、構造的な真実を理解していないことから生じる誤りです。
1. ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチとは何か——人体に組み込まれた「交互配列の設計」
理学療法士のGray Cookとストレングスコーチの故Michael Boyleが提唱した「ジョイント・バイ・ジョイント・アプローチ」は、人体の関節が下から上まで、機能的に「モビリティ(可動性優位)」と「スタビリティ(安定性優位)」を交互に配置されているという観察に基づきます。
下肢から上肢にかけての配列は以下の通りです。
- 足関節:モビリティ優位
- 膝関節:スタビリティ優位
- 股関節:モビリティ優位
- 腰椎:スタビリティ優位
- 胸椎:モビリティ優位
- 肩甲骨:スタビリティ優位(動的安定性)
- 肩関節(肩甲上腕関節):モビリティ優位
- 肘関節:スタビリティ優位
- 手関節:モビリティ優位
この交互配列には力学的な理由があります。動く関節と安定する関節が交互に並ぶことで、力の伝達と分散が効率化され、特定の関節への過剰な負荷集中を防ぐ仕組みになっています。

2. 「代償の連鎖」——モビリティ関節が硬くなると何が起きるか
このシステムの核心は、モビリティ関節が硬くなると、隣接するスタビリティ関節が代償的に「過剰に動く」ようになり、本来安定すべき関節が不安定化して痛みや損傷を引き起こすという連鎖です。
① 足関節(モビリティ)が硬い → 膝(スタビリティ)が代償
水曜Vol.6で解説した足関節背屈制限が起きると、スクワット・着地動作で膝関節が過剰な内旋・外反(ニーイン)を強いられます。本来安定すべき膝が「動きすぎる」ことで、前十字靭帯損傷・膝蓋大腿関節症候群のリスクが急増します。
② 股関節(モビリティ)が硬い → 腰椎(スタビリティ)が代償
水曜Vol.4で解説した股関節モビリティ制限(FAIなど)が起きると、スクワットのしゃがみ込み・前屈動作で腰椎が過剰に屈曲します。腰椎は本来回旋・屈曲が苦手な構造(火曜・水曜シリーズで解説)であるため、この代償動作が椎間板への剪断ストレスを蓄積させ、慢性腰痛・椎間板ヘルニアの根本原因になります。
③ 胸椎(モビリティ)が硬い → 肩関節・腰椎(スタビリティ)が代償
水曜Vol.5で解説した胸椎回旋制限が起きると、ゴルフ・野球などの回旋動作で肩関節と腰椎が過剰に動員されます。肩のインピンジメント(水曜Vol.7で解説)と腰痛が同時に発生するケースは、この胸椎モビリティ不足が共通の根本原因であることが臨床的に非常に多いです。
📚 専門的エビデンス
Cook G, et al. “Movement: Functional Movement Systems.” Lotus Publishing, 2010(書籍)/関連: Bell DR, et al. “Systematic review of the functional movement screen.” Strength and Conditioning Journal, 2014.
PubMedで詳しく見る
Gray Cookが提唱したジョイント・バイ・ジョイント・アプローチは、機能的動作評価(FMS:Functional Movement Screen)の理論的基盤として広く臨床現場・スポーツ現場で採用されています。関節の機能不全が隣接関節への代償を生むという臨床観察は、理学療法・アスレチックトレーニングの分野で確立された原則です。
3. LiAiL式「痛みの真因を特定する3ステップ評価法」
- 痛みの部位を確認する:まず痛みが出ている関節を特定します。例:膝、腰、肩。
- その関節がモビリティ関節かスタビリティ関節かを判定する:本記事の配列表(足関節→膝→股関節→腰椎→胸椎→肩甲骨→肩→肘→手関節)と照らし合わせます。痛みが出ているのがスタビリティ関節(膝・腰椎・肘)であれば、隣接するモビリティ関節の制限を疑います。
- 隣接するモビリティ関節を評価・改善する:膝が痛い場合は足関節背屈(水曜Vol.6のWBLTテスト)と股関節(水曜Vol.4のFAIテスト)の両方を評価します。腰が痛い場合は股関節と胸椎の可動域を評価します。痛みのある関節を直接攻めるのではなく、隣接するモビリティ関節を解放することが、根本解決への最短ルートです。
※持続する痛みや急性の外傷がある場合は、自己判断せず必ず医師・理学療法士の評価を受けてください。本記事は一般的な体力づくり・パフォーマンス向上を目的とした原則の解説です。
まとめ:痛みの場所と原因の場所は違う——日曜シリーズが導く「全身を診る」という視点
日曜シリーズの流れを振り返ります。
- Vol.1:骨格系の基礎——重力に抗う構造の真実
- Vol.2:神経支配の地図——どの神経がどの筋肉を動かすか
- Vol.3:関節包と靭帯——「動く」と「安定する」の両立の解剖学
- Vol.4:大臀筋の筋束走行——スクワットとデッドリフトを変える真実
- Vol.5:筋膜連鎖——全身をつなぐ結合組織ネットワークの解剖学的真実
- Vol.6:開放性・閉鎖性運動連鎖——OKCとCKCの違いが全ての運動処方の基盤
- Vol.7:関節モビリティとスタビリティの法則——痛みの場所と原因の場所は違う
次週Vol.8では、「固有受容感覚とバランス能力の解剖学——なぜ年齢とともに転倒リスクが高まるのか」を解説します。骨格・神経・筋膜・運動連鎖・モビリティ&スタビリティに続く、日曜シリーズの新たな探求が始まります。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムースとウメを娘のように愛する、誠実な伴走者。
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