【月曜連載21】医療現場が教えるカラダの真実|体温調節と暑熱順化——医療現場が教える熱中症の本当の予防法|LiAiL

2026.10.05

パパ、お客様が「毎年梅雨明けの時期に熱中症になりかける」って言ってたんだけど、真夏の一番暑い時期より危ないことってあるの?🐾

ムース、それは「暑熱順化」ができていない時期の典型的な現象よ。体が暑さに慣れる前に急に気温が上がると、真夏本番より危険なことがあるの。パパ、体温調節の生理学を語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.20では「体液バランスと脱水」についてお伝えしました。今週Vol.21は、脱水と密接に関わるテーマとして「体温調節と暑熱順化——医療現場が教える熱中症の本当の予防法」を解説します。

(👉 【月曜連載Vol.20】体液バランスと脱水はこちら)
(👉 【月曜連載Vol.4】心臓手術現場から学ぶ運動の真実はこちら)
(👉 【月曜連載Vol.14】高齢者の転倒予防はこちら)

「熱中症は真夏の炎天下で起こるもの」「毎年暑さには慣れているから大丈夫」——これは多くの方が持つイメージです。しかし実際には、気温が急に上がり始める梅雨明け直後や初夏の時期こそ、体が暑さに適応しきれておらず、熱中症の発症リスクが高まることが分かっています。


1. 「暑熱順化」とは何か——体が暑さに適応する生理学的プロセス

暑熱順化(Heat Acclimatization)とは、暑い環境に繰り返し身体をさらすことで、発汗開始のタイミングが早まる、発汗量が増える、汗に含まれる塩分濃度が下がる(塩分の無駄な喪失を防ぐ)、皮膚血流量が増えるといった一連の適応が体内で進む生理学的プロセスです。

この適応には一般的に1〜2週間程度を要するとされ、暑熱順化が完了していない状態で急に高温環境にさらされると、同じ気温でも体温調節が追いつかず熱中症のリスクが高まります。「去年は平気だったから今年も大丈夫」という感覚は、体が毎年ゼロから暑さに慣れ直す必要があるという生理学的事実を見落としがちです。


2. 熱中症リスクを高める「4つの要因」

① 季節の変わり目——「気温の急上昇」への未対応

気象データを見ると、熱中症による救急搬送は真夏のピーク時だけでなく、梅雨明け直後や急激な気温上昇時にも増加する傾向が報告されています。体がまだ暑熱順化を終えていない時期に急な気温上昇が重なることが、この時期特有のリスクを高める要因です。

② 加齢による体温調節機能の低下

加齢に伴い、発汗機能や皮膚血流量を調整する自律神経の反応が低下することが知られています。Vol.20で解説した口渇感の低下も相まって、高齢者は「暑さを感じにくく、水分も摂りにくい」という二重のリスクを抱えやすい状態にあります。室内でも熱中症が発生するのは、この体温調節機能の低下が背景にあります。

③ 湿度の影響——「気温だけ」では測れない危険度

体温調節の主要な手段である発汗による気化熱の放散は、湿度が高いと著しく効率が落ちます。気温がそれほど高くなくても湿度が高い環境では、体感以上に熱がこもりやすくなります。これが、気温だけでなく湿度も加味したWBGT(暑さ指数)が熱中症予防の指標として広く用いられる理由です。

④ 運動強度と暑熱順化不足の組み合わせ

暑熱順化が不十分な状態で、いつも通りの強度の運動やトレーニングを行うと、体内で発生する熱の量に対して放熱が追いつかなくなります。特にシーズン序盤の部活動やスポーツ現場では、この「体力はあるのに暑さへの適応が追いついていない」状態が、重篤な熱中症事故の背景要因としてしばしば指摘されます。

📚 専門的エビデンス
Périard JD, et al. “Adaptations and Mechanisms of Human Heat Acclimation: Applications for Competitive Athletes and Sports.” Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 2015.
PubMedで詳しく見る

本総説は暑熱順化のメカニズムと必要期間を整理したレビュー論文で、発汗開始の早期化・発汗量増加・汗中ナトリウム濃度低下・血漿量増加といった適応が、おおむね1〜2週間の暑熱曝露で生じることを示しています。シーズン序盤や気温急上昇時に、この適応が間に合っていないアスリート・一般の方がリスクにさらされやすいことを裏付ける代表的な文献です。


3. LiAiL式「暑熱順化と熱中症予防の5原則」

  1. 気温が上がり始める時期に、軽い運動から暑さへの曝露を計画的に始める:本格的な猛暑が来る前の時期に、軽いウォーキングなど無理のない強度で暑さに体を慣らしていくことで、暑熱順化を計画的に進めます。
  2. シーズン序盤は運動強度・時間を控えめに調整する:体力に自信があっても、暑熱順化が済んでいない時期は、通常より強度・時間を落とした設定から徐々に戻していきます。
  3. 気温だけでなく暑さ指数(WBGT)を確認する習慣をつける:湿度の影響を加味した指標を確認することで、体感とのズレを防ぎます。環境省の熱中症予防情報サイトなど公的な情報源を活用します。
  4. Vol.20の水分管理と組み合わせて実践する:暑熱順化と適切な水分・電解質補給は、熱中症予防において両輪の関係にあります。片方だけでは不十分であることを意識します。
  5. 高齢者・持病のある方は特に慎重に、異変時は速やかに対応する:めまい、頭痛、吐き気、意識がもうろうとするなどの症状が見られた場合は、直ちに涼しい場所へ移動し、体を冷やし、水分・塩分を補給します。意識障害や嘔吐がある場合、自力で水分が摂れない場合は、直ちに救急車を要請してください。

まとめ:熱中症は「暑さそのもの」ではなく「適応の遅れ」が引き起こす

月曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1〜5:脂肪・姿勢・脊椎・心臓・関節——手術現場が教える体の構造的真実
  • Vol.6〜8:骨・腱靭帯・神経——組織修復と力学的刺激の関係
  • Vol.9〜14:がん・透析・糖尿病・妊娠・高齢者——制約のある体を支える運動設計
  • Vol.15〜20:「見えないプロセス」——痛み・症状・むくみ・呼吸・脱水の奥にある機能の話
  • Vol.21:熱中症は「暑さへの適応不足」が本質的な要因である

次週Vol.22では、「睡眠時無呼吸症候群と体づくり——医療現場が教える『眠っているのに疲れが取れない』理由」を解説します。体温・水分管理に続き、回復の土台となる睡眠の質について掘り下げます。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「去年平気だったから今年も大丈夫」は通用しないんだね!体は毎年ゼロから暑さに慣れ直すって知らなかった🐾

室内でも熱中症になるって聞いて怖くなったな……高齢者は暑さも渇きも感じにくいなんて、二重に危険なんだな🐾

小太郎、だからこそ周囲の見守りも大事なのよ。来週Vol.22は「睡眠時無呼吸症候群と体づくり」——眠っているのに疲れが取れない理由を解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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