【火曜連載10】女性ホルモンと体型の科学|テストステロン・DHEAと女性の筋肉量|LiAiL
パパ、前回はPCOSとインスリン抵抗性の話だったけど、今日は「テストステロン」なの?女性なのに男性ホルモンを気にする必要あるの?🐾
実はテストステロンとDHEAは、女性の筋肉量や運動パフォーマンスにもしっかり関わっているのよ。パパ、パワーリフティング競技者として日々ホルモンと向き合っている立場から、正しく解説してあげて。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.9では「PCOSとインスリン抵抗性」についてお伝えしました。今週Vol.10は、20,000セッション以上の指導現場とパワーリフティング競技者としての実感の両方から、「テストステロン・DHEAと女性の筋肉量」を科学的データとともに解説します。
(👉 【火曜連載09】PCOSとインスリン抵抗性はこちら)
(👉 【火曜連載01】エストロゲンと脂肪分布の真実はこちら)
(👉 【火曜連載08】甲状腺ホルモンと代謝はこちら)
「重い重量を扱うと女性でも筋肉がゴツくなってしまう」——これはトレーニング現場で女性会員さんから最も多くいただく不安の声です。しかし、この不安は「質」ではなく「量」の誤解から生まれています。
1. 「女性には関係ない」という誤解—テストステロンの真の役割
テストステロンは「男性ホルモン」と呼ばれがちですが、女性の卵巣・副腎でも生成される、女性にとっても不可欠なホルモンです。あわせて重要なのがDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)で、副腎から分泌される「テストステロンの材料」となる前駆ホルモンです。DHEAは体内でテストステロンやエストロゲンへと変換され、筋肉・骨・脳機能など幅広い組織に影響を与えます。
ただし量的には男女で大きな差があります。血中テストステロン濃度は女性が男性のおよそ10〜20分の1とされており、この量的な違いこそが、後述する「筋肉がつきすぎる心配はいらない」という結論の根拠になります。
2. 科学が示す「筋肉とパフォーマンスへの効果」
① 除脂肪量(LBM)の有意な増加
スウェーデンの研究チームによる二重盲検ランダム化比較試験では、健康な運動習慣のある女性48名を、テストステロンクリーム(1日10mg)投与群とプラセボ群に分けて10週間追跡しました。投与群では血中テストステロン濃度が0.9nmol/Lから4.3nmol/Lへと約4.8倍に上昇し、体重を変えることなく全身除脂肪量が平均923g増加(プラセボ群は135g)、下肢除脂肪量は398g増加(プラセボ群は91g)しました。
② 持久系パフォーマンスの向上
同研究の主要評価項目である疲労困憊までの走行時間(TTE)は、テストステロン投与群でプラセボ群と比較して有意に8.5%(21.17秒)延長しました。この結果は「テストステロン上昇が女性の有酸素パフォーマンスにも因果的に寄与する」ことを裏付けるものとして、女性アスリートの生理学研究で頻繁に引用されています。
③ 筋力への効果は限定的
一方で、スクワットジャンプ・カウンタームーブメントジャンプ・膝伸展筋力といった筋力指標には有意差が見られませんでした。「除脂肪量は増えても、それがそのまま筋力向上に直結するとは限らない」という点は、指導現場で「体組成」と「発揮筋力」を分けて評価すべき理由でもあります。
📚 専門的エビデンス
Hirschberg AL, et al. “Effects of moderately increased testosterone concentration on physical performance in young women: a double blind, randomised, placebo controlled study.” British Journal of Sports Medicine, 2020.
PubMedで詳しく見る
健康な運動習慣のある女性48名を対象とした二重盲検RCT。テストステロン濃度を穏やかに上昇させた群で、体重増加なしに除脂肪量と持久系パフォーマンスが有意に改善したことが示されました。女性におけるテストステロンの生理学的役割を因果関係として証明した数少ない介入研究です。
3. なぜ「筋肉がつきすぎる」心配はいらないのか
男性の血中テストステロン濃度はおよそ300〜1,000ng/dL、女性は15〜70ng/dLとされ、その差は10〜20倍にのぼります。先述のRCTでテストステロンを人為的に約4.8倍まで引き上げてようやく923gの除脂肪量増加が観測されたことを踏まえると、自然な内因性テストステロン濃度のままウエイトトレーニングを行っても、男性のような筋肥大に至ることは生理学的に起こりにくいと考えられます。「重い重量=ゴツくなる」ではなく、「ホルモン濃度の絶対量」が結果を左右するという点が、量的な誤解を解く鍵です。
また、Vol.4で扱った通り、DHEAの血中濃度は25歳から75歳にかけて約80%減少すると報告されています。DHEAはテストステロンの材料であるため、加齢に伴うDHEA低下は、更年期以降の筋力・骨密度低下(Vol.4・Vol.5参照)と密接に関連する要因の一つです。
4. LiAiL式「女性がホルモンを味方につける5つの介入」
- 高重量のレジスタンストレーニングを恐れない:前述の量的な違いから、女性が高重量を扱っても男性的な筋肥大には至りにくいことを理解した上で、逃げずに負荷を扱うことが除脂肪量と骨密度の維持に直結します。
- コルチゾールとのバランスを意識する:Vol.7で扱った通り、慢性的な高コルチゾール状態は筋タンパク分解を促進します。睡眠不足や過度なカロリー制限を避け、回復を確保することがテストステロンの働きを支えます。
- タンパク質摂取量を確保する:体重1kgあたり1.6〜2.0g程度を目安に、筋タンパク合成の材料を切らさないことが、ホルモン変化の効果を実際の筋肉量に反映させる前提条件になります。
- 更年期以降はDHEA低下を見据えた対策を:Vol.4・Vol.5と連携し、骨密度・筋肉量の両面から更年期以降のトレーニング強度と栄養戦略を見直します。
- 「見た目の数値」ではなく「機能改善」に着目する:体重や見た目の変化だけでなく、疲労困憊までの持久時間や日常生活動作の楽さなど、機能面の変化を評価指標に加えることをお勧めします。ホルモン療法やサプリメントとしてのDHEA摂取を検討する場合は、必ず医師に相談の上で判断してください。

まとめ:「女性の筋肉がつきすぎる」は量の誤解である
火曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。
- Vol.1:エストロゲンと脂肪分布の真実
- Vol.2:月経周期の4フェーズと代謝変動
- Vol.3:プロゲステロンと食欲の暴走
- Vol.4:更年期前後のホルモン変化と体型崩れ
- Vol.5:活性型ビタミンDとエストロゲンの関係
- Vol.6:レプチンとエストロゲンの逆フィードバック
- Vol.7:コルチゾールと女性の体型
- Vol.8:甲状腺ホルモンと代謝
- Vol.9:PCOSとインスリン抵抗性
- Vol.10:テストステロン・DHEAと女性の筋肉量
次週Vol.11では、「妊娠・産後のホルモン変化と体型」を解説します。エストロゲン・プロゲステロン・リラキシンが劇的に変動するこの期間に、体はどう変化し、どう向き合うべきかをお伝えします。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
テストステロンを4.8倍にしてやっと除脂肪量+923gなんだね。普段のトレーニングくらいじゃゴツくなりようがないってことか🐾
筋力は変わらなかったってのが面白いな。除脂肪量と発揮筋力は別物として見ろってことだな🐾
小太郎、その通りよ。来週Vol.11は「妊娠・産後のホルモン変化と体型」——大きく揺れ動くこの時期の体との向き合い方を解説するわ。🐾











