【火曜連載11】女性ホルモンと体型の科学|妊娠・産後のホルモン変化と体型|LiAiL
パパ、前回はテストステロンの話だったけど、今日は妊娠・産後なの?「産後は骨盤がゆがむ」ってよく聞くけど、あれって本当にホルモンのせいなの?🐾
実はそこ、多くの人が誤解しているポイントなの。妊娠中はエストロゲン・プロゲステロン・リラキシンという3つのホルモンが劇的に変動するけれど、関節がゆるむ理由は意外とシンプルじゃないのよ。パパ、指導現場のデータも交えて説明してあげて。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.10では「テストステロン・DHEAと女性の筋肉量」についてお伝えしました。今週Vol.11は、20,000セッションを超える指導の中でも相談件数が特に多いテーマ、「妊娠・産後のホルモン変化と体型」を解説します。
(👉 【火曜連載10】テストステロン・DHEAと女性の筋肉量はこちら)
(👉 【火曜連載01】エストロゲンと脂肪分布の真実はこちら)
(👉 【火曜連載05】ビタミンDとエストロゲン・骨密度の関係はこちら)
「産後は骨盤がゆがむ」「体型が戻らないのは骨盤矯正が必要だから」整体やサロンでよく使われる説明ですが、医学的に見て、骨盤を構成する骨そのものが物理的に歪むことはありません。実際に起きている現象を正しく理解することが、産後の体と向き合う第一歩です。
1. 妊娠中のホルモン大変動。3つの主役
妊娠が成立すると、女性の体内では非妊娠時とは比較にならない規模でホルモン濃度が変動します。エストロゲン・プロゲステロンは妊娠後期にかけて非妊娠時の数十倍から数百倍の濃度に達し、子宮内膜の維持や胎児の発育を支えます。さらに卵巣・胎盤から分泌されるリラキシンは、出産に向けて骨盤靭帯や子宮頸部を柔軟にする役割を持つホルモンとして知られています。
これら3つのホルモンは出産後、数日から数週間かけて急激に低下します。この「急上昇からの急降下」という変動幅の大きさそのものが、産後の体型・関節・気分に多方面の影響を及ぼす背景になっています。
2. 「骨盤がゆがむ」は医学的に成立しない。実際に起きているのは関節の弛緩
まず明確にしておくべき事実があります。骨盤は仙骨・寛骨(腸骨・坐骨・恥骨)という硬い骨で構成されており、この骨自体が妊娠・出産によって「歪む」ことは、解剖学的・医学的にあり得ません。「骨盤矯正」という言葉が広く使われていますが、骨そのものを整体やトレーニングで動かして矯正するという発想自体が、解剖学的な前提を欠いています。
妊娠・産後に実際に変化するのは骨ではなく、仙腸関節・恥骨結合をつなぐ靭帯の弛緩度です。「関節のゆるみ=リラキシンのせい」という説明も非常に浸透していますが、実はこの因果関係は臨床研究では一貫して支持されていません。妊娠経過とともに手首関節の弛緩度を追跡した研究では、54%の女性に関節弛緩の増加が確認された一方、その弛緩度の変化は血中のエストラジオール・プロゲステロン・リラキシン濃度のいずれとも有意な相関を示しませんでした。
つまり、靭帯が緩むこと自体は事実として観察される一方、「どのホルモンが」「どの程度」関与しているかは、単純な量的関係では説明しきれない多因子的な現象だということです。「骨盤がゆがんだから矯正が必要」ではなく、「関節周囲の靭帯が一時的に緩んでいる時期」として理解するのが医学的に正確な捉え方です。
3. 産後の腹直筋離開(DRA)ホルモンと物理的変化の交差点
体型崩れの相談で最も多いのが、お腹の中心にある腹直筋が左右に開いてしまう腹直筋離開(DRA:Diastasis Recti Abdominis)です。これは子宮の物理的な拡張と、ホルモンによる結合組織の柔軟化が組み合わさって生じる現象です。
📚 専門的エビデンス
Mota PGF, Pascoal AGBA, Carita AIAD, Bø K. “Prevalence and risk factors of diastasis recti abdominis from late pregnancy to 6 months postpartum, and relationship with lumbo-pelvic pain.” Manual Therapy, 2015.
PubMedで詳しく見る
初産婦84名を対象に、妊娠35週から産後6ヶ月まで超音波でDRAを追跡した縦断研究です。DRAの有病率は妊娠35週時点で100%、産後6ヶ月時点でも39%に達しました。妊娠前BMI・体重増加量・児の出生体重による有意差はなく、さらにDRAの有無と腰部・骨盤帯痛の間にも有意な関連は認められませんでした。
「お腹が開いている=痛みの原因」と直感的に結び付けがちですが、この研究が示す通り両者は必ずしも一致しません。一方でDRAは産後6ヶ月時点でも4割近い女性に残存するため、腹圧のかけ方を誤ったトレーニングは避けるべき期間として理解しておく必要があります。
4. LiAiL式「産前産後の体と向き合う5つの介入」
- 「関節が緩い=危険」と即断しない:関節弛緩とホルモン濃度は単純比例しないことを理解した上で、可動域よりも動作コントロールの質を評価軸にします。
- 腹直筋離開の有無を必ず確認する:産後トレーニング再開前に、臍周囲の指幅チェックなどでDRAの状態を確認し、腹圧を過度にかける種目(クランチ等)を安易に選ばない。
- 呼吸と骨盤底の連動を優先する:腹直筋よりも先に、横隔膜・骨盤底筋群・腹横筋の協調収縮を再教育し、体幹の土台を作り直してから負荷を上げます。
- 段階的に負荷を戻す:産後の組織回復には個人差が大きく、出産方法(経腟・帝王切開)によっても回復スピードは異なります。医師の運動許可を前提に、自重→軽負荷→通常負荷と段階を踏みます。
- 「体型が戻らない」を自己責任にしない:ホルモン変動・組織修復には個人差があり、数ヶ月単位で判断すべき問題です。強い腹痛・骨盤痛・尿もれ等の症状がある場合は、自己判断せず産婦人科医または理学療法士に相談してください。

まとめ:産後の体は「壊れた」のではなく「回復途中」である
火曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。
- Vol.1:エストロゲンと脂肪分布の真実
- Vol.2:月経周期の4フェーズと代謝変動
- Vol.3:プロゲステロンと食欲の暴走
- Vol.4:更年期前後のホルモン変化と体型崩れ
- Vol.5:活性型ビタミンDとエストロゲンの関係
- Vol.6:レプチンとエストロゲンの逆フィードバック
- Vol.7:コルチゾールと女性の体型
- Vol.8:甲状腺ホルモンと代謝
- Vol.9:PCOSとインスリン抵抗性
- Vol.10:テストステロン・DHEAと女性の筋肉量
- Vol.11:妊娠・産後のホルモン変化と体型
次週Vol.12では、「授乳期のホルモンと体型変化。プロラクチンと排卵抑制の科学」を解説します。産後さらに続くホルモン変化が、体型と月経再開にどう影響するかをお伝えします。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
関節のゆるみとホルモン濃度が相関しないなんて意外!「リラキシンが多いから危険」って単純な話じゃないんだね🐾
お腹が開いてても痛みとは関係ないって研究結果も面白いな。見た目の変化と機能的な問題は分けて考えろってことだな🐾
小太郎、その通りよ。来週Vol.12は「授乳期のホルモンと体型変化」プロラクチンと排卵抑制の科学を解説するわ。🐾










