【月曜連載10】医療現場が教えるカラダの真実|抗がん剤治療中に運動していい理由|LiAiL

2026.07.20

パパ、前回は「手術後は安静にするな」って話だったけど、抗がん剤や放射線治療中はどうなの?体力が落ちてる時に運動なんてキツすぎない?🐾

それこそが多くの人が誤解しているポイントよ。実は治療中の運動は「体力を消耗させるもの」ではなく「治療効果を支える介入」だと、国際的なガイドラインで明確に示されているの。パパ、その根拠を語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.9では「がん術後の早期離床」についてお伝えしました。今週Vol.10は、多くの患者さんとご家族が悩む「抗がん剤治療中に運動していい理由」を、国際ガイドラインと臨床現場での知見から解説します。

(👉 【月曜連載Vol.9】がん術後と運動はこちら
(👉 【月曜連載Vol.8】神経修復と運動はこちら
(👉 【月曜連載Vol.4】心臓手術現場から学ぶ運動の真実はこちら

「抗がん剤で体力が落ちているのに運動なんて無理」「治療中は安静にして体力を温存すべき」——これは多くの方が抱く直感的な考えです。しかし現代腫瘍学において、この考え方は臨床データによって覆されています。


1. 「体力温存」という誤解——なぜ運動が治療を支えるのか

抗がん剤治療中は、吐き気・倦怠感・食欲不振などの副作用により「動く気力がない」状態になりやすいのは事実です。しかしASCO(米国臨床腫瘍学会)とACSM(米国スポーツ医学会)が共同で発表した運動ガイドラインでは、化学療法・放射線治療中の患者に対しても、可能な限り身体活動を維持することが推奨されています。

この背景にあるのが「安静そのものが倦怠感を悪化させる」という逆説的なメカニズムです。動かないことで心肺機能・筋力が低下し、それがさらなる倦怠感(がん関連倦怠感:CRF)を招くという悪循環が生まれます。運動はこの悪循環を断ち切る、数少ない有効な介入の一つとされています。


2. 治療中の運動がもたらす「4つの効果」

がん関連倦怠感(CRF)の軽減

がん関連倦怠感(Cancer-Related Fatigue)は、治療中の患者の多くが経験する持続的な疲労感で、休息だけでは改善しにくいという特徴があります。複数のメタアナリシスにより、有酸素運動やレジスタンス運動を組み合わせたプログラムがCRFを有意に軽減することが示されています。特に低〜中強度の運動が、休息よりも倦怠感の改善に有効であるという結果は、直感に反するために驚かれることが多いポイントです。

筋肉量の維持——カヘキシアへの対抗

Vol.9で触れた通り、がん患者は炎症性サイトカインの上昇により筋タンパク分解が進みやすい状態にあります。化学療法自体にも骨格筋量を減少させる作用が報告されており、治療期間中の筋力トレーニングは、この筋肉減少(がん性カヘキシア)の進行を緩やかにする数少ない手段です。筋肉量の維持は、治療完遂率や日常生活動作の維持にも直結します。

化学療法の完遂率向上

体力・筋力が維持されている患者ほど、予定された用量・スケジュール通りに化学療法を完遂できる割合が高い傾向が報告されています。体力低下による治療の延期・減量は、治療効果そのものに影響を与えかねません。運動による体力維持は、治療計画を予定通り進めるための土台づくりとも言えます。

心理的QOL(生活の質)の改善

運動には抑うつ・不安症状を軽減する効果も報告されています。治療という先の見えにくい期間の中で「自分の意思で体を動かせている」という感覚そのものが、心理的な自己効力感の維持に寄与すると考えられています。

📚 専門的エビデンス
Campbell KL, et al. “Exercise Guidelines for Cancer Survivors: Consensus Statement from International Multidisciplinary Roundtable.” Medicine & Science in Sports & Exercise, 2019.
PubMedで詳しく見る

本ステートメントは世界の腫瘍・運動生理学専門家による合意文書で、有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせが、がん関連倦怠感の軽減・QOL改善・不安/抑うつの軽減に対して十分なエビデンスを持つと結論づけています。安全に配慮しつつ「動けるうちは動く」ことの重要性を裏付ける代表的な文献です。


3. LiAiL式「治療中の運動を安全に行う5つの原則」

  1. 「その日の体調」で強度を決める:治療周期によって体調の波は大きく変動します。前回できた強度に固執せず、その日の倦怠感・血液データに合わせて柔軟に強度を下げる判断が重要です。
  2. 低〜中強度の有酸素運動を基本とする:ウォーキングなど、会話ができる程度の強度(自覚的運動強度:ややきつい未満)を基本とし、無理な高強度運動は避けます。
  3. レジスタンス運動で筋肉量を守る:自重や軽いチューブを使った運動で、大きな筋群(下肢・体幹)を中心に週2回程度の頻度を目安にします。
  4. 血液データ(好中球数・血小板数など)を必ず確認する:治療周期によっては感染リスクや出血リスクが高まる時期があります。運動可否の判断は、必ず担当医の許可と血液検査データに基づいて行います。
  5. 「やらない日」があっていいと理解する:継続が難しい日は無理をしないことも重要な判断です。運動の可否・強度は必ず主治医・腫瘍医と相談の上で決定してください。

まとめ:治療中の運動は「消耗」ではなく「支え」である

月曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1〜5:脂肪・姿勢・脊椎・心臓・関節——手術現場が教える体の構造的真実
  • Vol.6〜8:骨・腱靭帯・神経——組織修復と力学的刺激の関係
  • Vol.9:がん術後は「安静」より「早期離床」が予後を決める
  • Vol.10:化学療法中の運動はCRF軽減・筋肉維持・治療完遂率向上に寄与する

次週Vol.11では、「人工透析患者と運動——制限の中でできる体づくり」を解説します。がん治療と同様に「制約のある体」とどう向き合うか、医療現場の視点からお伝えします。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「安静そのものが倦怠感を悪化させる」って逆説的だけど納得!動けない→もっと疲れる、の悪循環を断ち切るのが運動なんだね🐾

血液データを見て強度を決めるって、素人判断は禁物ってことだな。主治医との連携が絶対条件か🐾

小太郎、その通りよ。来週Vol.11は「人工透析患者と運動」——制限のある体とどう向き合うかを解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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