【水曜連載14】プロアスリートの技術を一般に|握力の壁を疑え|LiAiL
パパ、お客さんが「デッドリフトで背中はまだ全然余力あるのに、手が先に開いちゃう」って悩んでたんだけど……これって握力を鍛えれば解決するの?🐾
単純に「鍛えれば解決」と思われがちだけど、そこには筋肉のサイズと疲労耐性の違いという、もっと構造的な理由があるのよ。パパ、握力の壁の正体を語りなさい。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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20,000セッションを超える指導の中で、そして自身のパワーリフティング競技経験の中でも、デッドリフトや懸垂で「背中や脚はまだ動くのに、握力だけが先に切れる」という悩みは非常に頻繁に耳にします。Vol.13ではニーインの通説を疑いましたが、今週Vol.14でも同じ切り口で「握力の壁を疑え。デッドリフト・懸垂のグリップが先に限界を迎える理由」を解説します。
(👉 【水曜連載Vol.1】スクワットの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.3】大臀筋のヒップヒンジ解剖学はこちら)
(👉 【水曜連載Vol.13】ニーインの常識を疑えはこちら)
「握力が弱いから鍛えるべき」これは半分正しく、半分は問題を単純化しすぎています。握力が先に限界を迎えるのは、多くの場合「弱いから」ではなく「筋肉の大きさが違うから」です。
1. 握力とは何か。単純な「強さ」ではなく複数のグリップ様式の集合
一口に「握力」と言っても、実際にはいくつかの異なる様式があります。物を握りしめるクラッシュグリップ、バーベルをぶら下げるように支えるサポートグリップ、指先でつまむピンチグリップ。デッドリフトや懸垂で問われるのは主にサポートグリップであり、これは一般的な「握力測定(ハンドダイナモメーター)」が測るクラッシュグリップとは異なる能力です。
つまり、握力測定の数値が高くても、デッドリフトでバーを長時間支え続けるサポートグリップの持久力が別問題として不足しているケースは珍しくありません。
2. なぜ握力が先に限界を迎えるのか。筋肉のサイズと疲労耐性の違い
デッドリフトを支える主働筋である殿筋・ハムストリングス・脊柱起立筋は、体の中でも大きな筋肉です。一方、バーを握る前腕の筋肉は体積が小さく、同じ強度の運動でも疲労が蓄積するスピードが根本的に異なります。
「握力が弱い」のではなく、「小さな筋肉が大きな筋肉より先に疲労するのは生理学的に当然」という前提を理解することが、正しい対策の第一歩です。握力を鍛えても、体積の差が根本的になくなるわけではないため、握力トレーニングだけで「背中と握力の疲労スピードを完全に一致させる」ことには限界があります。
3. 現場でよく見られるパターン。ストラップは「甘え」ではない
実際の指導現場では、高重量セットの複数レップ目で握力が切れ、本来鍛えたいはずの殿筋・ハムストリングス・背中が十分な刺激を受ける前にセットが終わってしまうケースが典型的です。この場合、狙った筋群にとっては「セットが未完了」のまま終わっていることになります。
「ストラップを使うのは甘え」という考え方も現場でよく耳にしますが、これは目的次第で誤りです。競技(パワーリフティングの試合)では握力も含めた総合力が問われるためストラップは使えませんが、トレーニングの目的が「殿筋・背中への刺激」であれば、握力というボトルネックを一時的に外すことは合理的な選択です。ミックスグリップやフックグリップといったグリップバリエーションも、同様に「握力の壁」を管理する手段の一つです。
📚 専門的エビデンス
Jukic I, García-Ramos A, Baláš J, Malecek J, Omcirk D, Tufano JJ. “Ergogenic effects of lifting straps on movement velocity, grip strength, perceived exertion and grip security during the deadlift exercise.” Physiology & Behavior, 2021;229:113283.
PubMedで詳しく見る
本研究は男性16名を対象に、ストラップなし・同一重量でのストラップあり・ストラップありでの新規1RMという3条件でデッドリフトを比較したものです。ストラップを使用した条件では、同一重量に対する挙上速度がより高く維持され、握力の疲労がより小さく抑えられることが確認されました。握力が動作全体のパフォーマンスを制限する独立したボトルネックであることを示す代表的なエビデンスです。
4. LiAiL式「握力の壁を正しく扱う5つの介入」

- 握力トレーニングを独立種目として週内に組み込む:デッドリフト当日だけで握力を鍛えようとすると、主働筋のセットが先に犠牲になります。ファーマーズウォークやデッドハングを、デッドリフトとは別の日に独立して組み込んでください。
- グリップバリエーションを使い分ける:ダブルオーバーハンド、ミックスグリップ、フックグリップにはそれぞれ特性があります。高重量セットではミックスグリップやフックグリップに切り替えることで、握力単体のボトルネックを軽減できます。
- 狙いに応じて戦略的にストラップを使う:目的が「殿筋・ハムストリングス・背中への刺激」である日は、ストラップを使い握力のボトルネックを外して主働筋を追い込みます。「素手で挙げる力」を鍛えたい日と使い分けてください。
- 握力の「持久力」を狙った種目を加える:瞬間的な握力だけでなく、長時間バーを支え続けるサポートグリップの持久力はデッドハングやファーマーズウォークで別途鍛える必要があります。一般的な握力測定の数値だけを指標にしないでください。
- 手や前腕に痛み・痺れが出る場合は自己判断で継続しない:握力低下が単なる筋疲労ではなく、手根管症候群やVol.8で解説した前腕の障害から来ている可能性もあります。痛みや痺れを伴う場合は、無理に継続せず医療機関や専門家への相談を優先してください。
まとめ:握力の壁は「弱さ」ではなく「構造」の問題である
水曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。
- Vol.1:スクワットの「常識」の多くは個体差を無視している
- Vol.3:大臀筋のヒップヒンジが股関節伸展の主導権を握る
- Vol.13:ニーインは「硬さ」ではなく「止められないから」起こる
- Vol.14:握力の壁は「弱さ」ではなく「筋肉のサイズの違い」という構造的な問題である
次週Vol.15では、「ベンチプレスの肩甲骨後退を疑え。固定しすぎが挙上パフォーマンスを下げる理由」を解説します。今回の「通説を疑う」シリーズを、ベンチプレスのセットアップに応用する内容です。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
「ストラップは甘えじゃない」って聞いてホッとした人多そう!目的によって使い分けるっていう考え方、分かりやすいね🐾
オレは咥える力には自信あるんだが、あれは握力にカウントされるのか?🐾
小太郎、それは咬合力で全くの別物よ。来週Vol.15は「ベンチプレスの肩甲骨後退を疑え」固定しすぎが挙上パフォーマンスを下げる理由を解説するわ。🐾











