【火曜連載12】女性ホルモンと体型の科学|授乳期のホルモンと体型変化|LiAiL

2026.08.04

パパ、前回は妊娠・産後の体型の話だったけど、今日は「授乳期」なの?「授乳中は妊娠しない」ってよく聞くけど、あれって本当?🐾

それは条件付きで正しいけれど、多くの方が誤解している「限界」があるのよ。プロラクチンというホルモンが、排卵抑制と体型変化の両方に関わっているの。パパ、正確な条件を説明してあげて。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.11では「妊娠・産後のホルモン変化と体型」についてお伝えしました。今週Vol.12は、20,000セッションを超える指導の中でも「授乳中だから運動やダイエットはどうすればいいか分からない」というご相談が多いテーマ、「授乳期のホルモンと体型変化。プロラクチンと排卵抑制の科学」を解説します。

(👉 【火曜連載11】妊娠・産後のホルモン変化と体型はこちら
(👉 【火曜連載10】テストステロン・DHEAと女性の筋肉量はこちら
(👉 【火曜連載01】エストロゲンと脂肪分布の真実はこちら

「授乳中は生理が来ないから妊娠しない」
「授乳を続ければ続けるほど痩せる」
どちらも一部は正しいのですが、条件を誤解したまま信じてしまうと、思わぬ落とし穴があります。


1. 授乳期に起きるホルモンの再編成|プロラクチンという主役

出産後、乳頭への吸啜(きゅうてつ)刺激は視床下部に伝わり、脳内のβ-エンドルフィンを介してGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)とドパミンの分泌を抑制します。ドパミンは通常プロラクチンの分泌を抑える働きを持つため、このドパミン抑制によってプロラクチン濃度が上昇し、母乳産生が維持されるという仕組みです。

同時にGnRHの抑制はLH(黄体形成ホルモン)・FSH(卵胞刺激ホルモン)の分泌低下を招き、排卵が起こりにくい状態がつくられます。これが「授乳中は妊娠しにくい」と言われる仕組みの本体です。ただし、この抑制は吸啜の頻度と強度に依存して変動するため、授乳の仕方次第で効果の強さが大きく変わる点が見落とされがちです。


2. 「授乳中は妊娠しない」の科学的根拠と限界|LAMという条件付きの方法

この生理的メカニズムを利用した家族計画法がLAM(Lactational Amenorrhea Method:授乳性無月経法)です。国際的なコンセンサス(Bellagio Consensus)では、次の3条件が同時に満たされる場合に限り、避妊効果が約98%に達するとされています。

  • ① 月経がまだ再開していない
  • ② 完全授乳、またはほぼ完全に近い授乳を行っている
  • ③ 産後6ヶ月以内である

📚 専門的エビデンス
Vekemans M. “Postpartum contraception: the lactational amenorrhea method.” European Journal of Contraception & Reproductive Health Care, 1997.
PubMedで詳しく見る

授乳による排卵抑制のメカニズムと、家族計画法としてのLAMの有効性をまとめたレビュー論文です。吸啜刺激がβ-エンドルフィンを介してGnRH・ドパミン分泌を抑制し、結果としてプロラクチン分泌の上昇とLH・FSH分泌の低下|すなわち排卵抑制が生じることを整理しています。同時に、吸啜頻度の低下・月経再開・産後6ヶ月経過のいずれかが起これば排卵が再開しうるため、3条件がそろわない状態での避妊効果は保証されないと明記されています。

重要なのは、排卵は月経が再開するより先に起こることがあるという点です。「まだ生理が来ていないから大丈夫」という判断は、排卵のタイミングを保証するものではありません。次の妊娠を計画的に考えたい場合も、避けたい場合も、この限界を理解した上で医師・助産師に相談することをお勧めします。


3. 体型変化との関係「授乳すればするほど痩せる」は誤解

プロラクチンには脂肪合成(リポジェネシス)を抑制し、脂肪組織でのグルコース取り込みを抑える作用も報告されており、理論上は授乳が体脂肪の減少を後押しする方向に働くと考えられます。しかし実際のデータはもう少し複雑です。

2015年に発表されたメタアナリシスでは、授乳期間が3〜6ヶ月の範囲では産後の体重残存(PPWR)を減らす方向に働く一方、6ヶ月を超えて授乳を継続しても、それ以上の体重減少効果はほとんど、あるいはまったく見られなかったと報告されています。「授乳を長く続ければ続けるほど痩せる」という直線的な関係は、現時点のエビデンスでは支持されません。妊娠前の体重・妊娠中の体重増加量・産後の身体活動量など、他の要因の影響が大きいためです。


4. LiAiL式「授乳期の体と向き合う5つの介入」

  1. LAMを「絶対安全」と過信しない:3条件のいずれかが崩れれば排卵は再開しうる。家族計画を考える際は自己判断せず、産婦人科医・助産師に相談する。
  2. 「授乳任せ」の体重管理をしない:6ヶ月以降は授乳による追加の減量効果がほとんど見込めないため、栄養・身体活動量を主体的に見直す段階に切り替える。
  3. 授乳期のカロリー・タンパク質を削りすぎない:母乳産生にはエネルギーが必要であり、過度な制限は母体の回復や授乳の継続そのものを妨げるリスクがある。
  4. 睡眠不足とホルモンの相互作用に注意する:Vol.7で扱ったコルチゾールの慢性上昇は、授乳期特有の睡眠分断とも重なりやすい。可能な範囲で休息を確保する工夫を優先する。
  5. 体型変化の個人差を受け入れる:授乳期間・体質・生活環境によって体型の戻り方には大きな個人差がある。月経再開後の避妊や体調不安がある場合は、自己判断せず医療機関に相談してください。

まとめ:授乳は「万能の避妊法」でも「万能のダイエット法」でもない

火曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1:エストロゲンと脂肪分布の真実
  • Vol.2:月経周期の4フェーズと代謝変動
  • Vol.3:プロゲステロンと食欲の暴走
  • Vol.4:更年期前後のホルモン変化と体型崩れ
  • Vol.5:活性型ビタミンDとエストロゲンの関係
  • Vol.6:レプチンとエストロゲンの逆フィードバック
  • Vol.7:コルチゾールと女性の体型
  • Vol.8:甲状腺ホルモンと代謝
  • Vol.9:PCOSとインスリン抵抗性
  • Vol.10:テストステロン・DHEAと女性の筋肉量
  • Vol.11:妊娠・産後のホルモン変化と体型
  • Vol.12:授乳期のホルモンと体型変化

次週Vol.13では、「女性ホルモンと睡眠の質|プロゲステロンとメラトニンの相互作用」を解説します。周期を通じて変動するホルモンが、なぜ睡眠の質に影響するのかをお伝えします。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

排卵が生理より先に来ることがあるなんて意外!「生理が来てないから大丈夫」は思い込みだったんだね🐾

6ヶ月過ぎたら授乳の減量効果も頭打ちか。それ以降は自分で栄養と運動を管理しろってことだな🐾

小太郎、その通りよ。来週Vol.13は「女性ホルモンと睡眠の質」プロゲステロンとメラトニンの関係を解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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