【水曜連載13】プロアスリートの技術を一般に|ニーインの常識を疑え|LiAiL

2026.08.05

パパ、スクワットで膝が内側に入る「ニーイン」って、股関節が硬いのが原因だってネットで見たんだけど、本当?🐾

ムース、それ実は逆なのよ。最新の研究では「股関節の内旋可動域が硬い」んじゃなくて「過剰に柔らかい」ことがニーインと関係しているの。パパ、その通説の誤りを語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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20,000セッションを超える指導の中で、「膝が内側に入るのは股関節が硬いから」という説明を、お客様からも他のトレーナーからも数え切れないほど聞いてきました。しかし、この通説は近年のバイオメカニクス研究によって覆されつつあります。Vol.1ではスクワットの常識を、Vol.4では股関節モビリティを、Vol.6では足関節背屈制限をお伝えしました。今週Vol.13では、それらの知識を踏まえた上で——「ニーインの常識を疑え——膝が内側に入る本当の理由」を解説します。

(👉 【水曜連載Vol.1】スクワットの常識を疑えはこちら
(👉 【水曜連載Vol.4】股関節のモビリティとインピンジメントはこちら
(👉 【水曜連載Vol.6】足関節背屈制限はこちら

「硬いから内側に入る」——この単純化された説明が、実は指導の現場を誤った方向に導いてしまうことがあります。正しい原因を知らなければ、正しい介入もできません。


1. ニーインとは何か——単純化された通説の限界

ニーイン(Medial Knee Displacement/膝の内側偏位)とは、スクワットの着地・しゃがみ動作の際に、膝がつま先よりも内側に入り込んでしまう現象です。ACL(前十字靭帯)損傷や膝前面の痛みのリスク因子として広く知られています。

従来、現場でよく語られてきたのが「殿筋が弱く、股関節が硬いから膝が内側に入る」という説明です。しかしこの説明はやや単純化されすぎており、近年の研究では「硬さ」ではなく「過剰な可動域」がニーインに関与するケースが報告されています。


2. 通説を覆すエビデンス——股関節内旋可動域の「過剰」がニーインを招く

股関節の内旋(大腿骨が内側にひねる動き)は、ある程度は正常な可動域として必要です。しかし、この内旋可動域が過剰に大きい場合、着地やしゃがみで荷重がかかった瞬間に大腿骨が内側に流れやすくなり、膝が内側に引き込まれる——これがニーインの一つの経路です。

ここに、股関節外旋筋(深層外旋六筋・大臀筋の一部)の筋力不足が重なると、荷重時に大腿骨の内旋を止める「ブレーキ」が働かず、ニーインが起こりやすくなります。つまり「股関節が硬い」のではなく、「股関節が動きすぎる方向に自由で、それを止める筋力が足りない」という組み合わせが、より正確な原因像です。


3. 典型的な代償パターン——疲労とともに悪化する

実際の指導現場では、セット序盤はニーインが出ていなかったお客様が、セット後半・高強度スプリント後半になると急に膝が内側に入り始めるケースがよく見られます。これは股関節外旋筋群が疲労により先に機能低下し、可動域側の「動きすぎる自由度」を抑えきれなくなるためと考えられます。特にジャンプ着地・切り返し動作を伴うスポーツでは、疲労後半に発生率が高まる傾向が指摘されています。

「1本目のスクワットはきれいなのに、5本目で膝が入る」——これは股関節が硬くなったからではなく、股関節外旋筋の疲労によるブレーキ機能の低下として捉えるべき現象です。

📚 専門的エビデンス
Imhoff FB, et al. “Greater hip internal rotation range of motion is associated with increased dynamic knee valgus during jump landing, both before and after fatigue.” Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, 2024.
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本研究は男女合計39名の競技サッカー選手を対象に、ドロップジャンプ着地時のニーインと股関節の回旋可動域・筋力の関係を、疲労プロトコルの前後で調べたものです。股関節内旋可動域が大きいほどニーインが有意に増加する関係が確認され(回帰分析で独立した予測因子)、特に女性選手では疲労後にその関係がより強く現れることが示されました。「硬さ」ではなく「過剰な可動域+筋力不足」がニーインの真因であることを裏付ける、比較的新しいエビデンスです。


4. LiAiL式「ニーインを解消する5つの介入」

  1. 股関節外旋筋・外転筋を随意的に強化する:クラムシェルやバンドウォークで、大腿骨の内旋を止める「ブレーキ筋」を狙って強化します。ストレッチで可動域を広げるのではなく、既にある可動域を制御する筋力を養うことが優先です。
  2. スクワット・着地で「膝を外に開く」意識を毎レップ行う:Vol.1で解説した通り、フォームの意識づけは代償パターンの再学習に有効です。特にセット後半、疲労が出てくるタイミングでこそ意識的に膝の向きを確認してください。
  3. 足関節背屈可動域を併せて確認する:Vol.6で解説した足関節背屈制限がある場合、代償として膝が内側に入る別の経路が生まれます。ニーインが出た際は股関節側だけでなく、足関節側の可動域も併せてチェックしてください。
  4. セット後半・試合終盤のフォームチェックを強化する:疲労とともにニーインが悪化する以上、セット序盤のフォームが良くても油断しないでください。高レップ・高強度の後半こそ、動画撮影や鏡でのセルフチェックを習慣化することを推奨します。
  5. 左右差や強い違和感がある場合は自己判断で継続しない:ニーインの改善エクササイズを続けても左右差が大きく残る場合や、膝に痛みが出ている場合は、股関節・膝関節そのものの評価が必要な可能性があります。無理に継続せず、医療機関や専門家への相談を優先してください。

まとめ:「硬いから」ではなく「止められないから」内側に入る

水曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1:スクワットの「常識」の多くは個体差を無視している
  • Vol.4:股関節の詰まりが動作全体の代償を生む
  • Vol.6:足関節の硬さが上位関節に影響を伝播させる
  • Vol.13:ニーインは「硬さ」ではなく「過剰な可動域を止める筋力不足」が真因である

次週Vol.14では、「握力の壁を疑え——デッドリフト・懸垂のグリップが先に限界を迎える理由」を解説します。今回の「通説を疑う」シリーズを、上半身のグリップに応用する内容です。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「硬いから」じゃなくて「止められないから」——この視点の転換、指導者こそ知っておくべきだね🐾

オレは4本足だからニーインとは無縁だな……と思ったら、たまに片足だけ内側に入るぞ🐾

小太郎、それは寝ぼけてるだけよ。来週Vol.14は「握力の壁を疑え」——デッドリフト・懸垂のグリップが先に限界を迎える理由を解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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