【火曜連載23】女性ホルモンと体型の科学|女性アスリートの無月経とRED-S|LiAiL

2026.10.20

パパ、今日は「生理が止まる」話なの?ハードに練習している女性アスリートは、生理が止まっても普通だって聞いたことあるけど、本当なの?🐾

結論から言うと、「普通」ではなく、体からの警告サインの可能性が高いの。ただし「30kcal」という有名な数字には落とし穴もあるわ。パパ、分かっていることと議論があることを分けて説明してあげて。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.22では「エストロゲンと靭帯損傷」についてお伝えしました。今週Vol.23は、パワーリフティングの階級制競技を経験し、22,000セッションを超える指導の中で「減量」と「体調」の両方を見てきた立場から、「女性アスリートの無月経とRED-S。エネルギー不足が招くホルモン異常」を解説します。

(👉 【火曜連載22】エストロゲンと靭帯損傷はこちら)
(👉 【火曜連載6】レプチンとエストロゲンの逆フィードバックはこちら)
(👉 【火曜連載5】活性型ビタミンDとエストロゲンの関係はこちら)
(👉 【火曜連載8】甲状腺ホルモンと代謝はこちら)

階級制競技では、試合前の減量で生理が止まる選手が珍しくありません。しかし月経が止まることは「頑張っている証拠」ではなく、体が「エネルギーが足りない」と知らせているサインかもしれません。


1. RED-Sとは。「女性アスリートの三主徴」からの広がり

以前は、女性アスリートに起こりやすい「利用可能エネルギー不足・無月経・骨密度の低下」の3つをまとめて女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad)と呼んでいました。その後、影響は月経や骨だけでなく、代謝、免疫、心血管、メンタルなど全身に及び、男性アスリートにも起こることが分かってきました。そこで国際オリンピック委員会(IOC)が提唱したのが、RED-S(Relative Energy Deficiency in Sport:スポーツにおける相対的エネルギー不足)という考え方です。

ポイントは「体重が軽い選手だけの問題ではない」ことです。運動で使うエネルギーに対して、食事から摂るエネルギーが足りない状態であれば、見た目が細くなくても起こり得ます。


2. 「利用可能エネルギー」の計算と、5日間の実験

📚 専門的エビデンス
Mountjoy M, Sundgot-Borgen JK, Burke LM, et al. “IOC consensus statement on relative energy deficiency in sport (RED-S): 2018 update.” British Journal of Sports Medicine, 2018.
PubMedで詳しく見る

IOCの合意声明です。利用可能エネルギー(EA)は「(食事から摂るエネルギー − 運動で消費したエネルギー) ÷ 除脂肪量(FFM)」で表され、1日あたり約45kcal/kg FFMが最適、30kcal/kg FFMを下回ると健康への悪影響が起こり得るとされています。一方で、EAは正確に測るのが難しいことも明記されています。

この「30」という数字の根拠になったのが、Loucks AB と Thuma JR による2003年の実験(Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism)です。月経が順調な運動習慣のない女性29名が、月経周期の卵胞期初期の5日間、毎日一定の運動を行いながらEAを45、30、20、10kcal/kg 除脂肪量に調整されました。その結果、30では排卵を促すLH(黄体形成ホルモン)の脈動はほぼ保たれ、それを下回るとLHの出方が乱れたと報告されています。

ここで、計算の例を示します(あくまで仕組みを理解するための例であり、食事の目標値ではありません)。

  • 除脂肪量45kgの女性が、1日2,000kcal食べ、運動で700kcal消費した場合:(2,000 − 700) ÷ 45 ≒ 28.9 kcal/kg FFM。30を下回ります。
  • 30に届くには:45 × 30 + 700 = 約2,050kcal。
  • 45に届くには:45 × 45 + 700 = 約2,725kcal。

「2,000kcal食べているから十分」と思っていても、運動量が多ければ、実は足りていないことがあるのです。なお、除脂肪量や運動での消費量は誤差が大きく、この計算は目安にとどまります。


3. 「30kcal」は絶対的な境界線ではない

ここがこの記事で最も大切な部分です。近年のレビュー論文(Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism, 2023)では、月経の乱れは30を上回る人でも下回る人でも観察され、LHの変化で予測できたのは黄体期の異常のみで、月経不順や無排卵そのものは予測できなかったと指摘されています。つまり、「30を上回れば安全」「下回ったら必ず止まる」とは言えません。

この結果から、次の2点が言えます。

  • 確認できている事実:エネルギー不足が続くと、視床下部(脳の司令塔)からのホルモン指令が乱れ、月経が乱れたり止まったりすることがある。
  • 議論が続いている点:「何kcalを下回れば必ず危険」という一律の線引き。個人差(体質、期間、ストレス、睡眠など)が大きい。

Vol.6でお伝えしたレプチン、Vol.8の甲状腺ホルモン、Vol.5の骨とビタミンDなども、エネルギー不足のときには同時に影響を受けます。「月経が止まる」のは、全身の省エネモードの一部が表に出たサインだと考えると、イメージしやすくなります。

また、前述の実験は「健康な女性を5日間だけ」調べたものです。数か月から数年にわたって減量や高負荷の練習を続ける競技者に、そのまま当てはめられるかどうかは確認できていません(推測ですが、期間が長いほど影響は大きくなる可能性があります)。だからこそ、数字だけに頼らず、体のサインも合わせて見る姿勢が大切です。


4. 月経以外にも出る。見逃しやすいサインと、無月経の他の原因

IOCの声明では、RED-Sの影響は月経と骨だけでなく、代謝(エネルギー消費の低下)、免疫、心血管、消化、メンタルにも及び、さらに競技パフォーマンスの低下につながり得るとまとめられています。「減量して軽くなったのに、なぜか記録が伸びない」という場面の裏に、エネルギー不足が隠れていることがあるのです。

現場で気づきやすいサインには、次のようなものがあります。

  • 月経が3か月以上来ない、または周期が極端に長くなった
  • 疲労骨折や、同じ部位のケガを繰り返す
  • 休んでも疲れが抜けない、風邪をひきやすくなった
  • 寒がりになった、集中力が続かない
  • 食事の内容や体重の数字が頭から離れない

ただし、月経が止まる原因はエネルギー不足だけではありません。妊娠、PCOS(Vol.9)、甲状腺の異常(Vol.8)、強いストレスなども原因になります。「自分はRED-Sだ」と決めつけず、まずは婦人科で原因を調べることが大切です。これらのサインは診断の代わりにはならず、あくまで「相談のきっかけ」として使ってください。


5. LiAiL式「エネルギー不足を防ぐ5つの視点」

  1. 月経の乱れを「勲章」にしない:生理が止まるのは頑張りの証ではなく、エネルギー不足を知らせる警告の可能性がある。3か月以上止まる場合は放置しない。
  2. 体重や見た目だけで判断しない:細くなくても、運動量に対して食事が足りていなければ起こり得る。体重より、月経・疲れやすさ・睡眠・ケガの頻度を確認する。
  3. 練習量が増えたら食事も増やす:運動での消費が増えたのに食事量が同じなら、利用可能エネルギーは下がる。トレーニング量とセットで食事を見直す。
  4. 繰り返すケガ・疲労骨折を警告と捉える:骨密度の低下(Vol.5)が背景にあることがある。ケガが続くときは、練習内容だけでなく栄養面も振り返る。
  5. 試合前の減量は専門家と一緒に管理する:急な減量や長期の食事制限を自己流で行わない。月経が3か月以上止まっている方、食事や体重への強い不安がある方は、自己判断せず、婦人科や専門の医療機関にご相談ください。

まとめ。月経が止まるのは、体の「エネルギー不足」サイン

火曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1:エストロゲンと脂肪分布の真実
  • Vol.2:月経周期の4フェーズと代謝変動
  • Vol.3:プロゲステロンと食欲の暴走
  • Vol.4:更年期前後のホルモン変化と体型崩れ
  • Vol.5:活性型ビタミンDとエストロゲンの関係
  • Vol.6:レプチンとエストロゲンの逆フィードバック
  • Vol.7:コルチゾールと女性の体型
  • Vol.8:甲状腺ホルモンと代謝
  • Vol.9:PCOSとインスリン抵抗性
  • Vol.10:テストステロン・DHEAと女性の筋肉量
  • Vol.11:妊娠・産後のホルモン変化と体型
  • Vol.12:授乳期のホルモンと体型変化
  • Vol.13:女性ホルモンと睡眠の質
  • Vol.14:女性ホルモンと肌質の変化
  • Vol.15:経口避妊薬(ピル)とホルモンの科学
  • Vol.16:エストロゲンと自己免疫疾患
  • Vol.17:女性ホルモンと運動パフォーマンス
  • Vol.18:エストロゲンと心血管疾患
  • Vol.19:エストロゲンと認知機能
  • Vol.20:エストロゲンと片頭痛
  • Vol.21:エストロゲンと乳がんリスク
  • Vol.22:エストロゲンと靭帯損傷
  • Vol.23:女性アスリートの無月経とRED-S

次週Vol.24では、「月経痛と運動。痛みを和らげる運動は本当にあるのか」を解説します。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

生理が止まるのは「頑張りの証」じゃなくて、エネルギー不足のサインかもしれないんだね。30kcalの線引きも絶対じゃないってところが大事だ🐾

練習を増やしたら飯も増やす。当たり前みたいだけど、これができてない選手が多いんだよな。減量は一人で抱え込まず、専門家と一緒にやれよ🐾

小太郎、その通りよ。来週Vol.24は「月経痛と運動」。痛みを和らげる運動が本当にあるのか、エビデンスで見ていくわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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