【火曜連載22】女性ホルモンと体型の科学|エストロゲンと靭帯損傷|女性アスリートにACL損傷が多い理由|LiAiL
パパ、前回は乳がんの話だったけど、今日は靭帯なの?女性アスリートって、膝の前十字靭帯(ACL)をケガしやすいって聞くけど、あれもホルモンのせいなの?🐾
関係している可能性はあるけれど、「ホルモンだけのせい」と言い切れるほど単純でもないの。パパ、競技者の目線も交えて、分かっていることと分かっていないことを分けて説明してあげて。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.21では「エストロゲンと乳がんリスク」についてお伝えしました。今週Vol.22は、22,000セッションを超える指導とパワーリフティング競技者としての経験から、膝や関節の安全を常に意識している立場で、「エストロゲンと靭帯損傷。女性アスリートにACL損傷が多い理由」を解説します。
(👉 【火曜連載21】エストロゲンと乳がんリスクはこちら)
(👉 【火曜連載17】女性ホルモンと運動パフォーマンスはこちら)
(👉 【火曜連載11】妊娠・産後のホルモン変化と体型はこちら)
「排卵期は靭帯がゆるむから危ない」——スポーツの現場で広く語られる説明ですが、実際のエビデンスは、そこまで断定できるものではありません。
1. 女性アスリートのACL損傷。まず知っておきたい性差
前十字靭帯(ACL)は、膝の中で脛骨が前方にずれるのを防ぐ重要な靭帯です。ジャンプの着地や急な方向転換といった「接触のない動作」で断裂する非接触型ACL損傷は、女性アスリートで男性より明らかに多く、18〜40歳の競技者では約3.5倍とするシステマティックレビューの報告があります(競技種目によって差があります)。
この性差の原因は一つではなく、骨盤・膝周りの骨格構造、着地時の動作パターンや筋の使い方(神経筋コントロール)、そしてホルモンなど、複数の要因が重なっていると考えられています。今回はその中の「ホルモン」の部分に焦点を当てます。
2. 月経周期と靭帯のゆるみ。メタアナリシスが示したこと
📚 専門的エビデンス
Herzberg SD, Motu’apuaka ML, Lambert W, Fu R, Brady J, Guise JM. “The Effect of Menstrual Cycle and Contraceptives on ACL Injuries and Laxity: A Systematic Review and Meta-analysis.” Orthopaedic Journal of Sports Medicine, 2017.
PubMedで詳しく見る
21件の研究(合計68,758名)を統合したシステマティックレビュー・メタアナリシスです。膝の前方弛緩性(ゆるみ)を定量的に統合できた研究では、排卵期は卵胞期と比べて有意に靭帯のゆるみが大きいことが示されました。ホルモン変動とACL損傷に関連があることを示唆する一方、著者らは「エビデンス全体の強さは低い」と明記しています。また、経口避妊薬の使用者では損傷リスクが最大約20%低い可能性が報告されていますが、これも確定的な結論ではありません。
つまり「エストロゲンが高い時期に靭帯がゆるむ傾向がある」ことは、複数の研究で一貫して観察されています。しかし「ゆるむ時期に実際に損傷が増える」ことを強いエビデンスで証明できているわけではありません。損傷のタイミングについては、排卵前後とする報告と、黄体期とする報告が混在しており、結果は一致していないのが現状です。
3. 「ゆるみ」と「ケガ」は同じではない。シリーズ共通の構造
Vol.11で解説した通り、妊娠中の関節弛緩は、ホルモン濃度と単純には相関しませんでした。Vol.17で解説した周期別トレーニングも、「理論上はもっともらしい」ことと「実際に検証されている」ことの間に大きな隔たりがありました。今回のACLも同じ構造です。ホルモン変動で測定値上の「ゆるみ」が変わることと、それが実際の損傷リスクの増加に直結するかどうかは、別の問いだということです。
だからこそ現場では、「この時期は危険だから休む」という発想ではなく、周期にかかわらず、着地・減速・方向転換の質を高めるという、より確実性の高いアプローチが重要になります。
4. LiAiL式「靭帯損傷を防ぐ5つの視点」

- 「この時期は危険」と決めつけない:ホルモンとACL損傷の関係はエビデンスが弱く、特定のフェーズだけを恐れて練習を休む根拠にはならない。
- 着地・減速・方向転換の技術を磨く:膝が内側に入る動作(ニーイン)を抑え、股関節と体幹で衝撃を受け止める練習は、周期に関係なく有効な基本対策。
- ハムストリングスと臀筋を鍛える:膝を後ろから支える筋群の強さは、脛骨の前方移動を抑える助けになる。レジスタンストレーニングは靭帯そのものを守る間接的な手段でもある。
- 疲労時のフォーム崩れに注意する:疲れた状態での着地や切り返しは、動作の質が落ちやすい。練習の後半ほど意識的にフォームを確認する。
- ケガ予防目的でホルモン薬を使わない:ピルの使用者で損傷リスクが低い可能性は報告されているが、確定的ではない。服用はあくまで医師の判断で行うものであり、ケガの予防だけを目的に自己判断で使用しないでください。
まとめ。「ゆるみ」は事実、でも「危険な日」を決めつけるのは早い
火曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。
- Vol.1:エストロゲンと脂肪分布の真実
- Vol.2:月経周期の4フェーズと代謝変動
- Vol.3:プロゲステロンと食欲の暴走
- Vol.4:更年期前後のホルモン変化と体型崩れ
- Vol.5:活性型ビタミンDとエストロゲンの関係
- Vol.6:レプチンとエストロゲンの逆フィードバック
- Vol.7:コルチゾールと女性の体型
- Vol.8:甲状腺ホルモンと代謝
- Vol.9:PCOSとインスリン抵抗性
- Vol.10:テストステロン・DHEAと女性の筋肉量
- Vol.11:妊娠・産後のホルモン変化と体型
- Vol.12:授乳期のホルモンと体型変化
- Vol.13:女性ホルモンと睡眠の質
- Vol.14:女性ホルモンと肌質の変化
- Vol.15:経口避妊薬(ピル)とホルモンの科学
- Vol.16:エストロゲンと自己免疫疾患
- Vol.17:女性ホルモンと運動パフォーマンス
- Vol.18:エストロゲンと心血管疾患
- Vol.19:エストロゲンと認知機能
- Vol.20:エストロゲンと片頭痛
- Vol.21:エストロゲンと乳がんリスク
- Vol.22:エストロゲンと靭帯損傷
次週Vol.23では、「女性アスリートの無月経とRED-S。エネルギー不足が招くホルモン異常」を解説します。Vol.6で扱ったレプチンの話ともつながる、競技者にとって重要なテーマです。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。
(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
排卵期に靭帯がゆるむ傾向はあるけど、「だから危険な日」とまでは言えないんだね。ここも断定しないのが大事だ🐾
結局、周期を気にするより着地と切り返しの技術を磨くほうが確実ってことだな。地味だけど一番効くやつだ🐾
小太郎、その通りよ。来週Vol.23は「女性アスリートの無月経とRED-S」。エネルギー不足が招くホルモン異常を解説するわ。🐾











