【月曜連載23】医療現場が教えるカラダの真実|貧血と運動——医療現場が教える「隠れ貧血」を見逃さない視点|LiAiL
パパ、お客様が「階段で息切れするし、ずっとだるいんです。健康診断は異常なしだったのに」って悩んでたんだけど、これって運動不足なだけなの?🐾
ムース、「異常なし」でも安心できないのが貧血の落とし穴よ。ヘモグロビンが基準内でも、体内の鉄の貯蔵が枯渇している「隠れ貧血」があるの。パパ、医療現場の知見を語りなさい。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.22では「睡眠時無呼吸症候群と体づくり」についてお伝えしました。今週Vol.23は、20,000セッション以上のパーソナル指導と13年の医療現場経験の中で、「疲れやすい」「息切れしやすい」というお悩みの背景に必ず確認したい視点として、「貧血と運動——医療現場が教える『隠れ貧血』を見逃さない視点」を解説します。
(👉 【月曜連載Vol.22】睡眠時無呼吸症候群と体づくりはこちら)
(👉 【月曜連載Vol.11】透析患者と運動はこちら)
(👉 【月曜連載Vol.4】心臓手術現場から学ぶ運動の真実はこちら)
(👉 【火曜連載Vol.1】エストロゲンと脂肪分布の真実はこちら)
「最近疲れやすいのは年齢のせい」「トレーニングの追い込みが足りないだけ」——こうした自己判断の裏に、貧血や鉄不足という、血液検査で確認できる原因が隠れていることがあります。パワーリフティングの競技者として自分の体を追い込んできた経験からも、「気合いで解決しようとする前に、数値で確認する」ことの大切さを強く感じています。
1. 貧血とは何か——「酸素を運ぶ力」の低下が運動に直撃する
貧血とは、血液中のヘモグロビン(赤血球の中で酸素を運ぶタンパク質)が不足し、全身の組織に十分な酸素を届けられなくなった状態です。WHO(世界保健機関)の基準では、成人女性でヘモグロビン12.0g/dL未満、成人男性で13.0g/dL未満が貧血とされています(妊娠中は基準が異なります)。
運動中の筋肉は、安静時の何倍もの酸素を必要とします。そのため貧血があると、まず運動時に症状が表れやすくなります。代表的なのは次のような変化です。
- 階段や坂道で以前より息が上がる、動悸がする
- いつものメニューなのに、後半で急に力が入らなくなる
- トレーニング後の疲労が翌日以降まで残る
- 立ちくらみ、頭痛、顔色の悪さ、爪の変化(スプーン状に反る)が見られる
- 集中力の低下、冷えやすさ、氷をむしょうに食べたくなる
貧血の原因として世界的に最も多いのが、鉄が足りなくなる「鉄欠乏性貧血」です。月経のある女性、持久系の競技者、食事量が少ない方、減量中の方などで起こりやすいことが知られています。一方、Vol.11で扱った透析患者さんの「腎性貧血」のように、腎臓などの病気が背景にあるタイプもあります。原因によって対処法がまったく異なるため、「貧血=鉄を摂ればよい」と決めつけないことが重要です。
2. 「隠れ貧血」が運動パフォーマンスを下げる4つのポイント
① 貧血になる前の「鉄欠乏」段階がある
体内の鉄は、まず貯蔵鉄(フェリチン)から減り、貯蔵が尽きた後にヘモグロビンが下がり始めます。つまり、鉄不足は「貯蔵鉄の減少 → 鉄欠乏 → 貧血」という段階を踏んで進行するということです。
この初期段階ではヘモグロビンが基準内のため、一般的な健康診断では「異常なし」と判定されることがあります。しかし貯蔵鉄が少ない状態でも、疲労感や運動能力の低下を訴える方がいることが報告されています。これが「隠れ貧血(潜在性鉄欠乏)」です。なお、フェリチンの基準値は国・学会・施設によって異なり、アスリートではやや高めの値を目安に考える立場もあります。数値の解釈は必ず医師に確認してください。
② 持久力・回復力の低下——鉄は酸素運搬以外にも働いている
鉄は、酸素を運ぶヘモグロビンだけでなく、筋肉内で酸素を蓄えるミオグロビンや、筋細胞のミトコンドリアでエネルギーを作る酵素にも必要な成分です。そのため鉄が不足すると、有酸素運動能力の低下やトレーニング後の回復の遅れにつながることがあります。
実際に、Burden RJ, et al. (2015)は、貧血のない鉄欠乏状態のアスリートを対象とした研究をまとめたメタアナリシスで、鉄補給により貯蔵鉄が改善し、最大酸素摂取量などの指標にも良い方向の変化が見られたと報告しています(British Journal of Sports Medicine)。ただし、これは検査で鉄欠乏が確認された方を対象にした結果であり、「鉄が足りていない人が補えば改善しうる」という話で、「誰でも飲めば強くなる」という話ではありません。
③ 運動そのものが鉄を失わせる——3つの経路
運動習慣のある方は、運動をしない方より鉄が不足しやすいと考えられています。主な経路は次の3つです。
- 発汗や消化管からのわずかな出血による喪失:汗にも微量の鉄が含まれ、長時間・高強度の運動では消化管からの微量出血も起こりうるとされています。
- 足底溶血:ランニングなど着地衝撃の大きい運動で、足裏を通る血管内の赤血球が壊れる現象です。
- ヘプシジン上昇による吸収低下:運動後に上昇するヘプシジンというホルモンは、腸からの鉄の吸収を抑えます。Peeling P, et al. (2009)らの研究では、運動後およそ3時間前後でヘプシジンが上昇することが報告されています(Medicine & Science in Sports & Exercise)。
さらに月経のある女性は、ここに月経による出血が加わります。ごく大まかな計算例を示します(あくまで目安です)。
🧮 月経による鉄喪失の概算例
血液1mLあたりの鉄は約0.5mgとされています。月経血の量を1周期40mLと仮定すると、40mL × 0.5mg = 約20mgの鉄が1周期で失われる計算です。1日あたりに直すと、20mg ÷ 28日 = 約0.7mg/日。これは発汗などによる日常的な喪失に上乗せされる分です。経血量が多い方(過多月経)では、この数値がさらに大きくなります。
参考:日本人の食事摂取基準(2020年版)では、鉄の推奨量は18〜49歳で、男性7.5mg/日、月経のある女性10.5mg/日とされています(年齢・状況により異なります)。
この差が、火曜Vol.2で解説した月経周期とトレーニングの関係とも結びつきます。「月経後に調子が戻らない」「周期的に疲れやすい」という訴えの背景に、鉄不足が隠れている可能性は常に頭に置いておきたい点です。
④ ダイエット・食事制限との相性の悪さ
極端な食事制限や、赤身肉・魚をほとんど食べない食事では、鉄の摂取量が不足しやすくなります。また、鉄の吸収率は食品によって大きく異なり、一般にヘム鉄(肉・魚由来)は吸収されやすく、非ヘム鉄(植物由来)は吸収率が低いとされています。
減量中に「急に疲れやすくなった」「トレーニングの質が落ちた」と感じた場合、カロリー不足だけでなく鉄不足が重なっていることも考えられます。Vol.9〜12で扱ってきた「制約のある体」と同様に、「減らす」減量こそ、不足を作らない設計が必要です。
📚 専門的エビデンス
Pasricha SR, et al. “Iron deficiency.” The Lancet, 2021.
PubMedで詳しく見る
本総説は、鉄欠乏が世界的に非常に多い健康課題であること、貧血に至る前の段階でも疲労感などの症状を伴いうること、診断にフェリチンなどの検査が有用であることを整理した包括的レビューです。「ヘモグロビンが正常でも鉄不足は起こりうる」という本記事の前提を裏付ける文献です。
3. 食事で鉄を摂る——数字で考える「現実的な設計」
鉄の摂取は「何を食べるか」と同じくらい「どう組み合わせるか」が重要です。食品に含まれる鉄の量は目安として次のとおりです(日本食品標準成分表をもとにした概算で、部位や調理法で変わります)。
- 豚レバー100g:約13mg(ヘム鉄が中心。ただしビタミンAも多いため食べ過ぎに注意)
- 牛もも赤身肉100g:約2.5mg前後
- カツオ(春獲り)100g:約2mg前後
- ほうれん草(ゆで)100g:約1mg前後(非ヘム鉄)
- 納豆1パック(約50g):約1.5mg前後(非ヘム鉄)
たとえば月経のある女性の推奨量10.5mg/日を、すべて牛もも赤身肉だけで賄おうとすると、10.5 ÷ 2.5 = 約4.2 → 約420gもの量が必要になり、現実的ではありません。だからこそ、肉・魚・大豆製品・野菜を組み合わせ、毎日少しずつ積み上げる発想が大切です。
吸収を助ける組み合わせとしては、非ヘム鉄とビタミンC(柑橘類、パプリカ、ブロッコリーなど)の同時摂取が知られています。一方、食事中や食直後のコーヒー・緑茶・紅茶に含まれるタンニンは、非ヘム鉄の吸収を妨げることがあります。気になる方は、食事との間隔をあける工夫が考えられます。
4. LiAiL式「隠れ貧血を見逃さない5つの介入」

- 疲れやすさが続く場合は、血液検査で確認する:ヘモグロビンだけでなく、フェリチン(貯蔵鉄)も含め
- て調べられるか、医療機関で相談します。数値の解釈や診断は医師が行います。
- 食事で鉄を意識して摂る:赤身肉・レバー・カツオ・あさりなどのヘム鉄を、週単位で無理なく取り入れます。植物性の非ヘム鉄(ほうれん草・大豆製品など)は、ビタミンCを含む食品と組み合わせます。
- 食事のタイミングと飲み物に配慮する:食事中・直後のコーヒーやお茶は、鉄の吸収を妨げることがあるため、間隔をあける工夫をします。
- 極端な食事制限を避ける:減量中も、タンパク質源(赤身肉・魚・卵・大豆製品)を確保し、鉄を含む食品を継続的に摂れる設計にします。
- サプリメントは自己判断で始めない:鉄は過剰に摂ると胃腸障害などを起こすことがあり、体質によっては過剰蓄積のリスクもあります。鉄剤・サプリメントの使用は、必ず検査結果をもとに医師・薬剤師と相談してください。めまい・動悸・息切れが強い場合や、月経量が非常に多い場合も、早めに受診してください。
なお、鉄欠乏の背景には、消化管からの出血や子宮筋腫など、治療が必要な病気が隠れていることもあります。「食事とサプリで何とかする」前に、原因の確認を優先してください。
まとめ:「疲れやすい」を根性や年齢で片づけず、血液の数値で確認する
月曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。
- Vol.1〜5:脂肪・姿勢・脊椎・心臓・関節——手術現場が教える体の構造的真実
- Vol.6〜8:骨・腱靭帯・神経——組織修復と力学的刺激の関係
- Vol.9〜14:がん・透析・糖尿病・妊娠・高齢者——制約のある体を支える運動設計
- Vol.15〜22:「見えないプロセス」——痛み・むくみ・呼吸・脱水・体温・睡眠の奥にある機能の話
- Vol.23:貧血・鉄欠乏は、運動能力と回復力を静かに下げる
次週Vol.24では、「血圧と運動——医療現場が教える『上がる血圧』との付き合い方」を解説します。血液の「量」と「質」に続き、血管にかかる「圧」の視点から運動を見直します。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
ヘモグロビンが正常でも、貯蔵鉄が減っていることがあるんだね。健診で「異常なし」でも、しんどさが続くなら相談する価値がありそう!🐾
運動するほど鉄を失いやすいってのは盲点だったな。でもサプリを勝手に飲むのはダメ、検査が先ってことか🐾
小太郎、その通りよ。来週Vol.24は「血圧と運動」——上がる血圧との付き合い方を解説するわ。🐾










