【水曜連載12】プロアスリートの技術を一般に|広背筋の柔軟性不足がオーバーヘッド動作を制限する理由。ラットプルダウンとプレスを両立できない解剖学的な壁|LiAiL

2026.07.29

パパ、背中をガッツリ鍛えてる上級者のお客さんが「昔よりオーバーヘッドプレスの可動域が狭くなった気がする」って言ってたんだけど……鍛えてるのに動きが悪くなるってどういうこと?🐾

それは広背筋の柔軟性不足ね。あの筋肉、実は肩を「上げる」動きにブレーキをかける役割も持っているの。鍛えれば鍛えるほど、ストレッチをサボると逆にプレスを制限してしまう。パパ、その解剖学的な壁を語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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20,000セッションを超える指導の中で、特に懸垂やラットプルダウンをしっかり行っているトレーニー・アスリートほど、オーバーヘッドプレスの可動域に制限を抱えているケースを多く見てきました。Vol.5では胸椎回旋制限を、Vol.7では肩関節インピンジメントを、Vol.11では肩甲骨の下方回旋不全をお伝えしました。今週Vol.12では、それらとは別のもう一つの壁「広背筋の柔軟性不足がオーバーヘッド動作を制限する理由。ラットプルダウンとプレスを両立できない解剖学的な壁」を解説します。

(👉 【水曜連載Vol.5】胸椎回旋制限はこちら
(👉 【水曜連載Vol.7】肩関節インピンジメントはこちら
(👉 【水曜連載Vol.11】肩甲骨の下方回旋不全はこちら

「背中を鍛えているのに肩が上がりにくい」これは矛盾ではなく、広背筋という筋肉の構造上、起こるべくして起こる現象です。プル系種目で強くなるほど、プレス系種目のための柔軟性を意識的に確保しないと、両立できなくなっていきます。


1. 広背筋とは何。肩関節の「内旋・伸展・内転」を作る巨大な筋肉

広背筋(こうはいきん)は、背中の中でも骨盤から上腕骨まで及ぶ、体の中で最も広い面積を持つ筋肉の一つです。主な働きは肩関節の伸展(腕を後ろに引く)・内転(腕を体側に引き寄せる)・内旋(腕を内側にひねる)で、懸垂やラットプルダウン、ローイングといったプル系種目の主働筋として機能します。

一方で、オーバーヘッドプレスのように腕を頭上に挙げる動作(肩関節の屈曲)では、広背筋は主働筋ではなく「伸ばされる側」の筋肉になります。広背筋が短く硬いままだと、この伸張が物理的に制限され、腕を真上まで挙げきれなくなります。プル系種目で発達させた筋肉が、そのままプレス系種目のブレーキになるという構造がここにあります。


2. なぜ発達した広背筋がプレスを制限するのか

懸垂やラットプルダウンを高頻度・高強度で継続すると、広背筋は肥大するだけでなく、筋自体の硬さ(スティフネス)も増していきます。Vol.11で解説した通り、肩の挙上動作は上腕骨と肩甲骨が2:1の比率で協調する肩甲上腕リズムに支えられていますが、広背筋は肩甲骨を下方に引き下げる作用も持つため、柔軟性が失われると肩甲骨の上方回旋そのものを物理的に妨げることになります。

つまり広背筋の硬さは、肩関節単体の可動域だけでなく、Vol.11で扱った肩甲骨の動きにも二重にブレーキをかける構造になっているのです。


3. トレーニー特有の典型的な代償パターン

実際の指導現場で最も多く見られるのが、オーバーヘッドプレスでバーベルやダンベルを頭上まで押し切ろうとした際、広背筋の伸張性不足で肩の挙上が止まり、代わりに腰を反らせて可動域を作る代償です。見た目には「バーが頭上まで上がった」ように見えても、実際は肩関節の屈曲角度が不足したまま、腰椎の過伸展で帳尻を合わせているケースが少なくありません。

また、プルとプレスのボリュームバランスが崩れ、プル系種目に偏った週間プログラムを組んでいるトレーニーほど、この制限が慢性化しやすい傾向があります。広背筋のケアを怠ったまま追い込み続けると、プレスのパフォーマンスが頭打ちになるだけでなく、Vol.7で解説したインピンジメントのリスクも同時に高めてしまいます。

📚 専門的エビデンス
Herrington L, Horsley I. “Effects of latissimus dorsi length on shoulder flexion in canoeists, swimmers, rugby players, and controls.” Journal of Sport and Health Science, 2014;3(1):60-63.
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本研究は健常な対照群40名、ラグビー選手25名、カヌー選手20名、水泳選手15名の計100名を対象に、外旋・内旋それぞれの肢位での肩関節屈曲可動域を比較したものです。特に広背筋の使用頻度・強度が高いカヌー選手は、外旋位での肩関節屈曲可動域が他群と比較して有意に小さく、広背筋の柔軟性が肩関節屈曲可動域に直接影響することを示す代表的なエビデンスとなっています。


4. LiAiL式「広背筋の柔軟性不足を解消する5つの介入」

  1. プル系種目の後は必ず広背筋を伸張する:懸垂・ラットプルダウン・ローイングを行った日は、オーバーヘッドリーチやラットストレッチで広背筋を意図的に伸ばすところまでをセットで行ってください。「鍛えたら伸ばす」を習慣化することが最もシンプルで効果的な予防策です。
  2. フォームローラーで広背筋・大円筋をリリースする:脇の下から肋骨側面にかけての広背筋・大円筋をフォームローラーでほぐし、トレーニング前の準備として硬さを一時的に緩めておくと、プレス種目の可動域確保に役立ちます。
  3. プレス種目前に肩関節屈曲方向のモビリティドリルを行う:壁を使ったオーバーヘッドリーチや、四つ這いでのシャトルストレッチなど、肩関節屈曲を実際の可動域に近い形で引き出すドリルをウォームアップに組み込んでください。
  4. プルとプレスの週間ボリュームバランスを管理する:プル系種目に偏った週間プログラムは広背筋の硬さを蓄積させます。週単位でプル・プレスのセット数を記録し、極端な偏りが出ていないか定期的に見直してください。
  5. 可動域制限や左右差が大きい場合は自己判断で継続しない:ストレッチやモビリティドリルを続けても改善しない強い可動域制限や、左右で明らかな差がある場合、広背筋以外の要因が関与している可能性があります。無理に継続せず、医療機関や専門家への相談を優先してください。

まとめ:「鍛える」と「伸ばす」はセットで初めて機能する

水曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.5:胸椎回旋制限がパワーを奪う
  • Vol.7:肩関節インピンジメントの基礎構造
  • Vol.11:肩甲骨の下方回旋不全が肩甲上腕リズムを崩す
  • Vol.12:発達した広背筋の柔軟性不足が、その両方に二重のブレーキをかける

次週Vol.13では、「股関節内旋制限とニーイン。スクワット・スプリントで膝が内側に入る本当の原因」を解説します。上半身の可動域の話から、再び下半身の代償パターンに戻る内容です。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「鍛えるだけじゃなく伸ばすまでがセット」背中好きな人には耳が痛い話かも!プルとプレスのバランス、これから記録してみる🐾

オレは前足を伸ばす動作が得意なんだが、広背筋のストレッチもこの要領でいいのか?🐾

小太郎、犬のグリーティングストレッチはそのままお手本になるわね。来週Vol.13は「股関節内旋制限とニーイン」スクワット・スプリントで膝が内側に入る本当の原因を解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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