【土曜連載14】強く・美しく・動ける体を作る科学|呼吸法とバルサルバ手技の科学|LiAiL
パパ、重いバーベルを持ち上げるとき、みんな息を止めて顔を真っ赤にしてるけど……あれって呼吸できてなくて危なくないの?🐾
ムース、それは「バルサルバ手技」という意図的な呼吸法よ。正しく使えば安全に体幹を安定させられる一方、血圧は驚くほど上昇するの。パパ、その科学を語りなさい。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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パワーリフティング競技者として高重量を扱う際、私自身も毎回このバルサルバ手技を使っています。13年間の医療機器業界での経験からも、血圧という数値がトレーニング中にどれほど変動しうるかを数値として理解しておくことの重要性を強く感じています。
今回のVol.14では、「なぜ高重量を扱う際に息を止めるのか」「それは本当に安全なのか」を科学的に整理し、正しいバルサルバ手技の使い方を解説します。
(👉 【土曜連載Vol.1】重量を支配する神経系ハックはこちら)
(👉 【土曜連載Vol.4】メカニカルテンションと代謝ストレスはこちら)
(👉 【土曜連載Vol.13】モビリティとストレッチングの科学はこちら)
「息を止めて力む」ことは根性論ではなく、体幹を「圧力の壁」で固める生理学的なメカニズムです。ただし、扱い方を誤ると健康リスクにもなり得ます。
1. バルサルバ手技とは何か「怖いもの」ではなく「使うべき技術」
バルサルバ手技(Valsalva maneuver)とは、声門(喉の奥)を閉じた状態で息を吐こうとすることで、胸腔内・腹腔内の圧力を急激に高める呼吸テクニックです。この圧力が体幹全体を内側から支える「天然のベルト」のように働き、脊柱を安定させます。
Vol.1で解説した神経系の出力と同様に、体幹が安定していなければ、四肢が発揮した力を効率よく地面やバーベルへ伝えることができません。バルサルバ手技は、この力の伝達効率を最大化するための土台作りです。
2. 血圧はどこまで上がるのか。MacDougall(1985)の衝撃データ
① レッグプレスで平均320/250mmHg、最大480/350mmHg
MacDougall JD, et al.(Journal of Applied Physiology, 1985)は、上腕動脈にカテーテルを挿入して直接血圧を測定するという大がかりな手法で、経験豊富なボディビルダー5名の高重量エクササイズ中の血圧を記録しました。その結果、両脚レッグプレス中の収縮期・拡張期血圧は平均320/250mmHgに達し、被験者の一人では最大480/350mmHgを記録しました。安静時血圧(一般的に120/80mmHg程度)と比較すると、いかに急激な変化かがわかります。
② 種目によって腹腔内圧(IAP)は大きく異なる
種目別に腹腔内圧を比較した複数研究のレビューでは、スクワットで200mmHgを超える圧力が記録される一方、ベンチプレスでは79±44mmHg程度と比較的低いことが示されています。同じ「高重量種目」でも、体幹への負荷は動作様式によって大きく異なることが分かります。
📚 専門的エビデンス
MacDougall JD, Tuxen D, Sale DG, Moroz JR, Sutton JR. “Arterial blood pressure response to heavy resistance exercise.” Journal of Applied Physiology, 1985.
PubMedで詳しく見る
本研究は動脈カテーテルによる直接測定という侵襲的手法を用いた、バルサルバ手技中の血圧反応に関する古典的かつ極めて重要な研究です。高重量トレーニング中の血圧上昇が「一時的だが非常に大きい」ことを定量的に示し、既往症のある方への注意喚起の科学的根拠となっています。
3. LiAiLが指導する「安全なバルサルバ手技」の実践法
Hackett DA, Chow CM(Journal of Strength and Conditioning Research, 2013)のレビューでは、重症の心血管疾患を持たない健康な人にとって、バルサルバ手技自体は低リスクな手技とされています。ただし血圧が急激に変動する性質上、高血圧や心血管疾患の既往がある方は注意が必要です。
私の現場では、80%1RM以上の高重量セットに限定してバルサルバ手技を使い、それ未満の重量やウォームアップセットでは通常呼吸を維持することを基本にしています。血圧の急上昇に関する話題は、木曜連載Vol.10で解説したGLP-1と代謝の健康とも関連する、心血管系全体の管理という大きな視点の一部です。(👉 【木曜連載Vol.10】GLP-1が食欲・血糖・体重を操る科学はこちら)
LiAiL式「呼吸法・バルサルバ手技を安全に使う5つの科学的介入」

- 高重量セット(目安80%1RM以上)に限定して使う:軽い重量やウォームアップでは通常の呼吸で十分です。毎セット行う必要はありません。
- 息を止める時間は1レップ分にとどめる:長時間の息止めは血圧上昇を助長します。1回の挙上ごとに軽く息を漏らし、再度圧を作り直すのが安全です。
- 「顔の力み」ではなく「腹圧」を作る:顔を真っ赤にする力みは腹圧形成とは無関係です。横隔膜を下げ、腹部360度に圧をかける感覚を練習します。
- 高血圧・心血管疾患の既往がある場合は医師に確認する:MacDougall(1985)が示す血圧上昇は健康な人を対象とした数値です。持病がある方は必ず事前に主治医に相談してください。
- 動作パターンごとに使い分ける:スクワット・デッドリフトなど腹腔内圧が高くなりやすい種目では特に丁寧に、ベンチプレスなど比較的低い種目では過度な力みを避けます。
※本記事は健康な成人を対象とした一般的な情報提供です。高血圧、心疾患、脳血管疾患などの既往がある方は、トレーニング内容の変更前に必ず医師にご相談ください。
まとめ:「息を止める」は根性ではなく、圧力を作る技術である
土曜連載Vol.1〜14の流れを振り返ります。
- Vol.1:神経系が重量を支配する
- Vol.2:セット数・レップ数が筋肥大を決める
- Vol.3:下ろす動作(エキセントリック)が筋肉を育てる
- Vol.4:メカニカルテンションと代謝ストレスが相乗する
- Vol.5:漸進性過負荷が成長の絶対条件
- Vol.6:レップ帯ごとに効果が異なる
- Vol.7:インターバルが筋力・筋肥大を左右する
- Vol.8:頻度が回復と成長のバランスを決める
- Vol.9:期分けが全ての要素を年間設計にまとめる
- Vol.10:オートレギュレーションが設計図を現場で機能させる
- Vol.11:ピーキングとテーパリングが疲労を記録に変換する
- Vol.12:リカバリー手段は目的に応じて選ぶべきもの
- Vol.13:ストレッチはタイミングで味方にも敵にもなる
- Vol.14:バルサルバ手技が体幹の力の伝達を最大化する
次週Vol.15では、「グリップ力の科学|握力が全ての種目の伸びしろを制限する」を解説します。体幹の次は、バーベルとの唯一の接点である「手」に注目します。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムースとウメを娘のように愛する、誠実な伴走者。
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
480/350mmHgって数字だけ見ると怖いけど、健康な人には低リスクっていうのが安心材料だね。ちゃんと使い分けが大事なんだ🐾
オレも吠える時、めちゃくちゃ腹に力入ってる気がするんだが、あれもバルサルバ手技なのか……?🐾
小太郎、それはただの遠吠えよ。来週Vol.15は「グリップ力の科学」握力が種目の伸びしろをどう制限するかを解説するわ。🐾











