【木曜連載24】最新論文から読み解く美と健康|ポリフェノールと食品ホルミシス——植物の防御物質が体を鍛える科学|LiAiL

2026.10.22

パパ、「抗酸化」って体にいいイメージだったけど、Vol.21で「運動の酸化ストレスが体を強くする」って言ってたよね?それなら抗酸化サプリって飲まない方がいいの?🐾

いいところに気づいたわね、ムース。実はそこがホルミシス編の最後の山場なの。「食べ物から摂るポリフェノール」と「高用量のサプリ」は、体にとって別物なのよ。パパ、指導現場の実感も交えて整理しなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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22,000セッション以上の指導の中で、「トレーニング前後にビタミンCやEのサプリを飲んだ方がいいですか?」という質問を数えきれないほど受けてきました。Vol.21〜23では、運動・熱・冷たさという穏やかなストレスが体を強くすることを解説しました。ホルミシス編の締めくくりとなる今回Vol.24は——「ポリフェノールと食品ホルミシス——植物の防御物質が体を鍛える科学」を解説します。

(👉 【木曜連載Vol.9】マイオカインが脂肪・脳・骨密度を変える分子生物学はこちら)
(👉 【木曜連載Vol.8】腸内環境と体組成はこちら)
(👉 【木曜連載Vol.19】サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)はこちら)
(👉 【木曜連載Vol.20】ミトコンドリアの質と量はこちら)
(👉 【木曜連載Vol.21】ホルミシス効果——少量のストレスが体を強くする科学はこちら)

結論から言うと、野菜・果物・お茶などの「食品」から摂るポリフェノールは積極的に取り入れてよい一方、高用量の抗酸化サプリは、運動の適応を弱める可能性が報告されています。この違いを、研究データとともに整理します。


1. ポリフェノールとは何か——「植物が身を守るために作る物質」

ポリフェノールは、植物が紫外線・害虫・乾燥といった環境ストレスから身を守るために作り出す化学物質の総称で、数千種類が知られています。動けない植物にとって、これは「自前の防御服」のようなものです。私たちが日常的に口にする代表例は次の通りです。

  • カテキン:緑茶の渋み成分
  • アントシアニン:ブルーベリー・紫キャベツ・黒豆などの紫色の色素
  • ケルセチン:玉ねぎ・りんごの皮などに多い成分
  • クロロゲン酸:コーヒーに含まれる成分
  • イソフラボン:大豆製品に含まれる成分
  • カカオフラバノール:カカオ(高カカオチョコレート)に含まれる成分

ブロッコリーなどのアブラナ科野菜に含まれるスルフォラファンは、厳密にはポリフェノールではなく「イソチオシアネート」という別系統の成分ですが、同じく植物の防御物質で、後述するNrf2経路の研究でよく登場します。

意外な事実:ポリフェノールの多くは「ほとんど吸収されない」

「ポリフェノールを食べればそのまま血液中で抗酸化物質として働く」というイメージは、実は正確ではありません。多くのポリフェノールは小腸での吸収率が低く、一部は大腸まで届いて、Vol.8で解説した腸内細菌によって別の物質に変換されてから体内に取り込まれると考えられています。血中濃度が上がっても、細胞内の活性酸素を直接消せるほどの量にはなりにくいことも指摘されています。

ではなぜ効果が語られるのか。ここで登場するのが「食品ホルミシス」という考え方です。植物が自分を守るために作った物質は、私たちの体にとってごく軽い「異物・ストレス」の信号として働き、体自身の防御システムを呼び覚ますのではないか、という見方です。ポリフェノールの価値は、活性酸素を直接消す「抗酸化力」よりも、体の防御スイッチを軽く押す「刺激」にある可能性が、近年有力視されています。ただし、ヒトでの効果の大きさには研究途上の部分が多く、断定はできません。


2. 食品ホルミシスを理解する4つのポイント

① 「防御スイッチ」Nrf2が体の守りを強化する

Nrf2(エヌアールエフツー)は、細胞内で抗酸化酵素や解毒酵素を作る遺伝子群のスイッチ役を担うタンパク質です。通常は不活性に抑えられていますが、軽い酸化ストレスや植物由来の防御物質を感知すると活性化し、細胞の守りを固めます。Vol.21で解説した運動による適応にも、この経路が関わっていると考えられています。

スルフォラファンはNrf2を活性化する代表的な食品成分として研究されていますが、データの多くは培養細胞や動物実験によるものです。「何g食べれば何が起きる」と言える段階ではなく、日々の食事の質を上げる理由の一つ、という位置づけが現実的です。

② 運動の「酸化ストレス」は害ではなく合図である

運動中、筋肉では一時的に活性酸素が増えます。これは「体に悪いもの」ではなく、「負荷がかかったから強くなれ」という合図として働きます。この合図がPGC-1α(Vol.20)を介してミトコンドリアを増やし、抗酸化防御を高め、インスリン感受性を改善する、というのが運動適応の基本的な流れです。

③ 合図を「打ち消す」と適応が弱まる可能性がある

もし高用量の抗酸化物質を摂り続けて、この軽い酸化ストレスの合図を消してしまったらどうなるでしょうか。「せっかく運動したのに、体が強くなれ、という指令が届きにくくなる」という仮説が成り立ちます。次章で述べる研究は、まさにこの仮説を検証したものです。

④ 「食品」と「サプリ」は量も形も別物

野菜や果物から摂る量は、サプリのような高用量にはなりません。また、食品には多数の成分が複合的に含まれ、吸収も緩やかです。Vol.18で「抗酸化物質を含む食品」を推奨したのは、この「食品として」の話であり、高用量サプリを勧めたものではありません。同じ「抗酸化」でも、軽く押すのか、強く押し切るのかで、体への意味が変わる——これがホルミシスの本質です。


3. 抗酸化サプリは運動の効果を弱めるのか——研究を整理する

この問いについて、代表的な研究を3つ整理します。

  • Ristow(2009年):健康な若年男性約40名が4週間運動。運動のみのグループで見られたインスリン感受性の改善や抗酸化酵素の増加が、ビタミンC(1日1,000mg)とビタミンE(1日400IU)を併用したグループでは見られなかった。
  • Gómez-Cabrera(2008年):ビタミンC(1日1g)を摂取した持久系トレーニングでは、ミトコンドリア新生の指標と持久力向上の幅が小さくなったと報告された。
  • Paulsen(2014年):若年成人約50名が11週間のトレーニング。ビタミンC(1,000mg)とビタミンE(235mg)の併用で、ミトコンドリア関連の指標の増加が小さくなったが、最大酸素摂取量の改善自体は同程度だった。

ただし、結果は一貫していません。筋力トレーニングでは筋肥大に差がなかったとする報告もあり、「全ての運動で必ず害になる」とまでは言えません。この領域の研究を読む際は、次の3点に注意してください。

  1. 対象と期間:多くは健康な若年者・数週間〜数か月の短期間の研究です。長期の影響や高齢者・患者での結果は別問題です。
  2. 用量:1日1,000mg前後という、食事ではまず到達しない高用量が使われています。
  3. 欠乏や医師の指示は別:明確な欠乏症や、医師が必要と判断して処方・指導しているサプリまで否定する話ではありません。

なお、大規模な臨床試験の統合解析(Bjelakovic、2007年)では、βカロテン・ビタミンA・ビタミンEなどの抗酸化サプリで死亡リスクが上昇する可能性も報告されています。「抗酸化物質は多いほど良い」という素朴な発想は、少なくとも高用量サプリについては支持されていないというのが、現時点で最も慎重な読み方です。

📚 専門的エビデンス
Ristow M, et al. “Antioxidants prevent health-promoting effects of physical exercise in humans.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 2009.
PubMedで詳しく見る

本研究は、健康な若年男性約40名を対象に、4週間の運動プログラムを実施し、一部の参加者にビタミンC(1日1,000mg)とビタミンE(1日400IU)を摂取させた比較試験です。運動のみのグループではインスリン感受性の向上や、抗酸化酵素・PGC-1αなどの遺伝子発現の増加が見られた一方、高用量の抗酸化ビタミンを併用したグループではこれらの適応が見られなかったと報告されました。運動に伴う軽度の酸化ストレスが適応のシグナルとして働くことを示した代表的な研究です。ただし、少人数・短期間の試験であり、後続研究では結果が一致しないものもあるため、「必ず害になる」と断定する根拠ではありません。


4. LiAiL式「食品ホルミシスを味方につける5つの工夫」

  1. 野菜を「1日350g」で設計する:厚生労働省の健康づくり指針では、野菜は1日350g以上が目標です。小鉢1皿を約70gとすると5皿分です。たとえば、朝:サラダ100g+ミニトマト5個(約50g)=150g、昼:ほうれん草のおひたし70g+味噌汁の具50g=120g、夜:野菜炒めや鍋の野菜100g。合計150+120+100=370gで目標に届きます。果物は1日200g程度(食事バランスガイドの目安)が一つの基準です。
  2. 色の違う植物性食品を組み合わせる:緑(ブロッコリー・ほうれん草)、紫(ブルーベリー・紫キャベツ)、赤(トマト)、白(玉ねぎ)など、色を変えると成分の種類も変わります。同じ野菜ばかりより、1日に3〜4色を意識するのが現実的です。ブロッコリーは刻んで少し置いてから短時間で加熱すると、スルフォラファンを生む酵素が働きやすいとされています。
  3. 高用量の抗酸化サプリの「常用」を避ける:ビタミンC・Eなどを1日1,000mg前後の高用量で習慣的に摂る方法は、トレーニング期にはお勧めしません。通常量のマルチビタミンや、欠乏が疑われる場合のサプリは別の話です。判断に迷う場合は、自己判断せず医師・管理栄養士に相談してください。
  4. お茶・コーヒー・カカオを「量と時間」で楽しむ:カフェインは健康な成人で1日400mgが安全な摂取量の目安とされています。コーヒー(1杯約90mg)なら3〜4杯程度が上限のイメージです。また、就寝の6時間前以降の摂取は睡眠の質(Vol.4)を損ねる可能性があるため、午後遅い時間は控えめにしましょう。
  5. 運動・食事・休養のセットで考える:食品ホルミシスは単独の魔法ではありません。運動(Vol.9・Vol.20)、適度な空腹(Vol.19)、睡眠と組み合わせて初めて意味を持ちます。「これさえ食べれば」という発想は避け、土台を整えた上での「上乗せ」と捉えてください。

※持病のある方、薬を服用中の方(特に抗凝固薬など)、妊娠中の方は、サプリメントや特定食品を大量に摂る前に医師・薬剤師にご相談ください。食品成分が薬の効果に影響する場合があります。


まとめ:体を鍛えるのは「大量の抗酸化物質」ではなく「適量の刺激」である

木曜連載、ホルミシス編Vol.21〜24を振り返ります。

  • Vol.21:少量のストレスが体を強くするというホルミシスの原理
  • Vol.22:温熱ストレスがヒートショックプロテインを誘導する
  • Vol.23:寒冷刺激が褐色脂肪を起動するが、効果は補助的
  • Vol.24:食品のポリフェノールは防御スイッチを軽く押し、高用量サプリは適応を弱める可能性がある

次週Vol.25からは新シリーズとして、「体内時計と時間栄養学——いつ食べ、いつ動くかが代謝を変える科学」を解説します。ここまで「何をするか」を中心に見てきた連載を、「いつするか」という新しい軸でつなぎ直します。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムースとウメを娘のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「抗酸化なら多いほどいい」じゃなかったんだね。まずは野菜をしっかり食べるところから、が一番確実な近道だと分かった🐾

Vol.21から24まで、運動・熱・冷たさ・食べ物と、全部「ほどよい刺激」でつながってたな。名誉会長、今回も勉強になったぞ🐾

小太郎、いいまとめね。来週Vol.25からは新シリーズ「体内時計と時間栄養学——いつ食べ、いつ動くかが代謝を変える科学」よ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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