【土曜連載24】強く・美しく・動ける体を作る科学|ディロードの科学|LiAiL

2026.10.24

パパ、「4週間頑張ったら1週間休め」ってよく聞くけど、休んだら筋肉が落ちちゃわない?本当に休む必要があるの?🐾

いい質問ね。実は最近の研究で「休めば必ず伸びる」とは言えない結果も出ているの。パパ、研究で分かっていることと、現場での使い方を分けて話しなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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22,000本以上のセッションの中で、「疲れているのに、休むのが怖くて追い込み続ける」というお客様に数多く出会ってきました。私自身も、お客様がパワーリフティングの大会前に、休むべき週に休めず、かえって調子を落としたのを見てきた経験があります。

今回のVol.24では、「ディロード(負荷を下げる週)」は本当に必要なのかを、専門家の合意と最新のランダム化試験の両方から整理します。

(👉 【土曜連載Vol.23】ストレスとコルチゾールの科学はこちら)
(👉 【土曜連載Vol.9】ピリオダイゼーション(期分け)の科学はこちら)
(👉 【土曜連載Vol.10】オートレギュレーションの科学はこちら)
(👉 【土曜連載Vol.11】ピーキングとテーパリングの科学はこちら)

結論から言うと、ディロードは「全員が定期的にやるもの」ではなく、「疲労の状態を見て、量を落として使う道具」です。


1. ディロードとは何か——「サボる週」ではなく「設計された回復」

ディロードとは、トレーニングの負荷を意図的に下げて、疲労を抜くための期間です。前回のVol.23で、ストレスや睡眠不足が回復の予算を削ることを解説しました。では、その予算を計画的に取り戻すにはどうすればよいのでしょうか。その答えの一つがディロードです。ただし、ディロードは「やれば必ず伸びる魔法の週」ではありません。最近の研究では、やり方次第で、やらない方がよい場合もあることも示されています。

① 国際的な専門家による定義

2023年にSports Medicine – Openに掲載された国際デルファイ研究(Bell L, et al.)では、パワーリフティングやボディビルの指導者を中心とした専門家パネルが、ディロードを「身体的・心理的な疲労を和らげるために、トレーニングストレスを減らす期間」と定義することで合意しました。最終ラウンドまで残った21名の回答に基づく合意です。

② 何を、どれだけ減らすのか

同研究では、セット数・回数・トレーニング日数を減らすことが合意項目になりました。強度(重さ)は通常と同じでなくてよい一方、量を減らすなら強度を維持してもよい、という考え方も支持されています。具体的な減らし幅(何%減か)は、この研究では示されていません。パーセンテージは、後述するLiAiLの運用目安です。

③ 「いつやるか」は一つではない

合意された項目には、メゾサイクル(数週間のトレーニングのまとまり)の間、競技会に向けた計画の中、身体的・精神的に疲れを感じた時、などが含まれます。つまり、計画して入れる場合と、状態を見て入れる場合の両方があります。

④ ディロードが必要な「サイン」の見分け方

Bellらのデルファイでは、身体的・精神的に疲れている時は、メゾサイクルの何週目であってもディロードを入れてよいことが全員一致で合意されました。実際の指導では、次のサインが2つ以上重なった時に検討します。

  • 同じ重量のRPEが2週間続けて1以上高い(Vol.10)
  • 睡眠が7時間を下回る日が続く(Vol.22)
  • 関節の違和感や、抜けにくい張りが続く
  • トレーニングに行く気力が明らかに落ちている
  • 同じ内容で2〜3回続けて、回数や重量が伸びない

1つだけなら睡眠や食事の調整で済むことも多く、すぐにディロードにする必要はありません。複数が重なる時に、量を落とす判断をします。


2. 科学的根拠——ディロードは本当に効果があるのか

① 【研究データ】1週間まったく休むと、筋力の伸びは少し小さかった

Coleman M, et al.(PeerJ, 2024)は、トレーニング経験者39名を対象に、9週間の高ボリュームのプログラムを行うランダム化試験を実施しました。ディロード群は5週目にレジスタンストレーニングを完全に休み、通常群は休まずに継続しました。

結果、筋肉の厚みや筋持久力には、はっきりした差は出ませんでした。一方、スクワット1RMは、ディロード群で92.8kg→105.8kg、通常群で95.9kg→112.3kgと、通常群の伸びが大きい傾向でした。著者らは、筋力を最大化したい場合、この種の完全休止型ディロードは控えめに使うべきだと述べています。

📚 専門的エビデンス
Coleman M, et al. “Gaining more from doing less? The effects of a one-week deload period during supervised resistance training on muscular adaptations.” PeerJ, 2024; 12:e16777.
論文を詳しく見る(PeerJ)

Bell L, Strafford BW, Coleman M, Androulakis Korakakis P, Nolan D. “Integrating Deloading into Strength and Physique Sports Training Programmes: An International Delphi Consensus Approach.” Sports Medicine – Open, 2023; 9:87.
論文を詳しく見る(DOI)

前者は「1週間の完全休止」の効果を検証した試験、後者は専門家21名の合意をまとめた研究です。性質が異なるため、両方を合わせて読むことが大切です。

② この研究から「言えること」と「言えないこと」

この研究は「完全に休む」ディロードだけを検証したものです。量や重さを減らして続ける形のディロードは調べていません。また、対象は18〜40歳の経験者で、期間は9週間、評価は下半身のみです。したがって「ディロードは意味がない」とは言えず、「定期的に完全休止すれば必ず伸びる、とも言えない」と整理するのが正確です。

③ 1週間休んでも、筋肉の厚みは維持されていた

今回のColemanらの試験では、1週間休んだ群でも筋肉の厚みは維持され、全体としては増加していました。短期の休みで筋肉が大きく失われるわけではないことを示唆します(推測を含みます)。休むことへの過度な不安は、持たなくてよいと考えられます。

④ 専門家は、何のためにディロードを使うのか

Bellらのデルファイでは、ディロードの目的として、疲労の軽減、オーバーリーチングやオーバートレーニングのリスク低減、ケガのリスク低減などが高い割合で合意されました。ただし、これは専門家の「意見の一致」であり、ランダム化試験のような直接的な証拠とは性質が異なります。

⑤ 「専門家の合意」と「試験データ」にはギャップがある

ここは誤解されやすい点です。専門家の間では「ディロードは有用」という意見が高い割合で一致していますが、Colemanらの試験では、完全休止の週が成長を後押しする結果にはなりませんでした。このギャップは、現時点では「どちらかが間違っている」というより、「完全休止型は検証され、量を落とす型はまだ十分に検証されていない」と読むのが妥当です(推測を含みます)。そのため、LiAiLでは「ディロードを全員に必須」とは伝えていません。疲労が溜まった時の選択肢として、量を落とす形で使う、という立場です。

⑥ 競技者とそれ以外で、考え方が違う

筋力の最大化を狙う競技者は、休みの週が長いほど不利になる可能性があるため、必要最小限の量を残すのが基本です。一方、ボディメイクや健康目的の方は、1回のセッションを丁寧にこなせることや、ケガ・停滞を防ぐことのほうが大切で、疲れを感じた時に早めに量を落とす方が長続きしやすい傾向があります。


3. 実践——いつ、どれくらい、どう下げるか(LiAiLの運用)

① 計画型と反応型を使い分ける

計画型は、あらかじめ4〜6週に1回入れる方法です(Vol.9の期分けと同じ考え方)。反応型は、Vol.10のRPEが2週間続けて普段より高い、睡眠が続けて乱れている、といった場合に入れる方法です。LiAiLでは、初心者や回復が安定している方は反応型中心、競技者や高負荷期の方は計画型を併用しています。

② 下げ幅の計算例

たとえば、週12セットのスクワット(100kg×5回)を行っている場合は、次のように調整します。

  • 量:週12セット→6〜7セット(50〜60%に減。12×0.5=6、12×0.6=7.2)
  • 重さ:100kgのまま、または90〜95kg(5〜10%減)
  • RPE:いつもRPE8のところを、RPE6〜7に抑える
  • 頻度:週2回なら週2回のまま、1回あたりのセット数を下げる(Vol.8)

これはLiAiLの運用目安であり、研究で一律に決まっている数値ではありません。

③ ディロード明けの戻し方

翌週は、前々週の量へすぐ戻すのではなく、通常量の70〜80%程度から始め、RPEを確認しながら1〜2週間で元に戻します。いきなり戻すと、疲労が再び溜まりやすくなります。

④ ディロード中にやってよいこと

軽い有酸素運動、散歩、睡眠時間の確保、食事の質の見直しは、むしろ推奨します(Vol.22、Vol.12)。ただし、「休む週」に別の強いストレス(激しい運動や大幅な食事制限)を入れては意味がなくなります。

⑤ 1週間の具体例(週2回・スクワットとベンチ中心の方)

通常週は、スクワット100kg×5回×3セット、ベンチプレス60kg×8回×3セットを週2回行います。ディロード週は、どちらも1回あたり2セットに減らし、重量は同じかやや下げ、RPEは6〜7で止めます。週のセット数は約半分になりますが、動作のリズムは保てます。セッション時間も通常の6〜7割ほどに短くなります。

「休むと不安」という方は、頻度はそのままにして、1回の量だけを落とす形がお勧めです。動作を忘れにくく、心理的な負担も少ないためです。Bellらのデルファイでも、頻度は変えなくてもよいという項目が高い割合で合意されています。

⑥ 迷った時の判断の目安

「RPEが戻らない」なら量を落とす。「睡眠が不足している」なら睡眠を最優先にする。「どちらもない」なら、そのまま続けて問題ありません。迷った場合は、まず1セッションだけ量を2割下げて、翌回のRPEを確認する方法が低リスクです。


4. ディロードでよくある3つの失敗と対処法

① 疲れていないのに、惰性で入れてしまう

「4週ごとだから」と機械的に休むと、調子が良い週まで落としてしまい、伸びる機会を逃します。計画型を使う場合も、直前の週のRPEと睡眠を確認し、元気なら1週ずらす、といった柔軟さが必要です。

② 休む週に、別のストレスを入れてしまう

トレーニングを減らした分、有酸素運動を増やしたり、食事を極端に減らしたりすると、総負荷(Vol.23)は下がりません。休む週は「全体の負荷を下げる週」と捉えてください。女性で周期による体調の波が大きい方は、周期に合わせて量を調整する考え方もあります。(👉 【火曜連載Vol.2】月経周期の4フェーズと代謝変動はこちら)

③ ディロード明けに、いきなり全力で戻す

休み明けは調子が良く感じて、前々週以上の重量に挑戦してしまう方がいます。ここで一気に戻すと、疲労が再び溜まるほか、関節への負担も増えます。70〜80%から始め、2週間かけて戻す方が安全です。


LiAiL式「ディロードを上手に使う5つの科学的介入」

  1. 完全に休むより「量を落とす」を基本にする:完全休止型では筋力の伸びが小さかった試験結果を踏まえ、動作の頻度は保ったまま量を減らします。
  2. 計画型と反応型を併用する:4〜6週に1回を目安に予定しつつ、RPEと睡眠を見て前後にずらします。
  3. 量は50〜60%、強度は維持か5〜10%減:週12セットなら6〜7セット、RPEは6〜7に抑えます。
  4. 明けは70〜80%から戻す:1〜2週間かけて元の量に戻し、反動での無理を防ぎます。
  5. 休む週は睡眠と食事を整える機会にする:別のストレスを足さず、総負荷そのものを下げます。

※強い疲労・気分の落ち込み・不眠が長く続く場合は、ディロードだけで解決しようとせず、医療機関や専門家にご相談ください。


まとめ:ディロードは「義務」ではなく「疲労に応じて使う道具」

土曜連載の中から、今回のテーマに関係の深い回を振り返ります。

  • Vol.8:頻度が回復と成長のバランスを決める
  • Vol.9:期分けに軽い週を計画として組み込む
  • Vol.10:RPEが、休むタイミングのサインになる
  • Vol.11:疲労を抜く発想は、テーパリングと同じ
  • Vol.22・23:睡眠とストレスが、回復の予算を決める
  • Vol.24:ディロードは量を落として、状態を見て使う

次週Vol.25では、「年齢とトレーニング」のテーマを予定しています(※テーマはご指示に合わせて変更します)。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムースとウメを娘のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「完全に休む」より「量を落とす」のほうが使いやすいんだね!RPEと睡眠でサインを見るって、お客さんにもすぐ伝えられそう🐾

オレは毎日散歩があるから、ディロードなんて関係ないな。……ん?散歩の日は何セット分なんだ?🐾

小太郎、散歩はトレーニングじゃなくて立派な回復よ。来週のテーマも、パパが整理して発表するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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