【水曜連載24】プロアスリートの技術を一般に|有酸素運動の常識を疑え|LiAiL

2026.10.21

パパ、お客さんが「脂肪燃焼ゾーンの心拍数を守って、毎回ゆっくり走ってるのに全然痩せない」って悩んでたんだけど、ゾーンを守れば脂肪が燃えるんじゃないの?🐾

ムース、それは「運動中に脂肪が使われる割合」と「脂肪が減ること」を混同しているのよ。ゾーンは実在するけれど、使い方に誤解が多いの。パパ、その真実を語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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22,000セッションを超える指導の中で、「心拍数を脂肪燃焼ゾーンに保って、30分ゆっくり走っているのに体重が動かない」というご相談を数多くいただいてきました。真面目に取り組んでいる方ほど、ゾーンを守ることに意識が向きすぎています。今週Vol.24のテーマは、「有酸素運動の常識を疑え。脂肪燃焼ゾーン神話の真実」です。

(👉 【水曜連載Vol.19】炭水化物断ちの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.20】オーバートレーニングの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.22】体幹トレーニングの常識を疑えはこちら)
(👉 【水曜連載Vol.23】筋肉痛の常識を疑えはこちら)

先に結論をお伝えします。脂肪燃焼ゾーンという考え方は、生理学的には根拠のあるものです。ただし、そのゾーンで運動することと、体脂肪が減ることは別の話です。


1. 「脂肪燃焼ゾーン」とは何か。なぜ広まったのか

脂肪燃焼ゾーン(Fatmax)とは、運動中に1分あたりに使われる脂肪の量が最大になる運動強度のことです。一般に最大心拍数の60〜70%前後と説明されることが多く、フィットネスマシンの表示やスポーツクラブの案内でもよく目にします。

運動強度が低いほど、エネルギーに占める脂肪の割合は高くなります。ゆっくり歩いているときは、主に脂肪が使われているからです。この事実から「低めの強度でやるほど脂肪が燃える」「だから脂肪を落とすならゾーンを守ろう」という説明が広まりました。

ここに落とし穴があります。「脂肪が使われる割合が高い」ことと、「実際に使われる脂肪の量が多い」ことは違います。さらに、運動中に脂肪が使われることと、数週間後に体脂肪が減ることも別の問題です。


2. エビデンスで見る脂肪燃焼ゾーンの実像

① ゾーンは実在するが、幅が広く個人差も大きい

Achtenらの研究(2002)では、中程度にトレーニングを積んだ自転車選手18名に段階的な運動負荷テストを行い、脂肪の使用量が最大になる強度を調べました。その結果、脂肪の使用量が最大になる強度(Fatmax)は最大酸素摂取量の約56%で、最大値の10%以内に収まるゾーンは55%から72%という幅の広い範囲に位置していました。

同じ著者らの別の研究(2003)では、トレーニングを積んだ男性の平均で、最大の脂肪使用量は1分あたり0.52g、そのときの強度は最大酸素摂取量の約63%でした。一方で、均質なグループの中でも個人差は大きいことが報告されています。つまり、「何%の心拍数なら必ず脂肪が最大に使われる」と言い切れる単一の数字はありません。

また、最大酸素摂取量の約89%(最大心拍数の約92%)を超えると、運動中の脂肪の寄与はごくわずかになることも示されています。

② 運動中の脂肪の使用量は、体脂肪の減少とは別問題

体脂肪が減るかどうかを左右するのは、運動中の燃料の内訳ではなく、長期的な総エネルギー収支です。この点を直接見たのが、Wewegeらのメタ分析(2017)です。過体重・肥満の成人を対象に、高強度インターバルトレーニング(HIIT)と中強度の持続的トレーニング(MICT)を比較しました。

結果として、HIITとMICTのどちらも全身の脂肪量と腹囲を有意に減少させ、その効果は同程度でした。強度が高い方が脂肪の使用割合が低くても、脂肪を減らす効果が劣るわけではなかったということです。

ただし、このメタ分析ではランニングでは両方式とも大きな効果が見られた一方、自転車エルゴメーターでは脂肪減少が確認されなかったと報告されています。運動の種類や条件によって結果が変わり得るため、「どの方式でも必ず同じ結果になる」と断定するのは適切ではありません。


3. 数字で見る。最大の強度で走っても脂肪は意外と減らない

脂肪燃焼ゾーンで運動したときの脂肪の使用量を、簡単な計算で確認してみます。Achten(2003)の平均値(最大0.52g/分)を使った目安です。

  • 30分間の運動で使われる脂肪は、0.52g × 30分 = 15.6g
  • 脂肪は1gあたり約9kcalなので、15.6g × 9kcal = 約140kcal
  • 体脂肪1kgを約7,200kcalと仮定すると、7,200 ÷ 140 = 約51回

つまり、脂肪が最も使われる強度で30分運動しても、その運動だけで体脂肪1kg分を落とすには、約51回分の運動が必要になる計算です。これは、トレーニングを積んだ男性の平均値を使った単純計算です。食事や日常の活動量、運動後の消費の影響は含まれておらず、個人差も大きいため、あくまで規模感をつかむための目安として受け取ってください。

この規模感から分かるのは、運動中の脂肪使用の「割合」を気にしすぎるより、食事を含めた1日・1週間の総エネルギー収支を整える方が、結果に直結するということです。Vol.22で解説した部分痩せの話とも、Vol.19で触れた「目的に合わせて設計する」考え方とも、一本の線でつながっています。

4. 現場でよく見られる誤解

実際の指導現場で多いのは、心拍計の数字を気にするあまり、強度を低く抑えすぎるケースです。ゾーンを外れないように歩く速度まで落とし、運動全体の消費エネルギーが小さくなってしまう方もいます。食事は以前のままで、週に数回、同じ強度の有酸素運動だけを続けても、総エネルギー収支がほとんど変わらなければ体重は動きにくいのが実情です。

もう一つは、心拍数の目安を絶対的な基準として扱ってしまうことです。前述の通り、脂肪の使用が最大になる強度には個人差があり、年齢から計算した心拍数だけで個別の最適強度を決めることはできません。ゾーンは「守るべきルール」ではなく、強度を選ぶときの参考情報の一つとして扱うのが適切です。

📚 専門的エビデンス
Achten J, Gleeson M, Jeukendrup AE. “Determination of the exercise intensity that elicits maximal fat oxidation.” Medicine & Science in Sports & Exercise, 2002;34(1):92-97.
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Achten J, Jeukendrup AE. “Maximal fat oxidation during exercise in trained men.” International Journal of Sports Medicine, 2003;24(8):603-608.
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Wewege M, van den Berg R, Ward RE, Keech A. “The effects of high-intensity interval training vs. moderate-intensity continuous training on body composition in overweight and obese adults: a systematic review and meta-analysis.” Obesity Reviews, 2017;18(6):635-646.
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Achten(2002)は中程度にトレーニングを積んだ自転車選手18名で、脂肪使用が最大になる強度が最大酸素摂取量の約56%、最大値の10%以内のゾーンが55〜72%の幅を持つこと、約89%を超えると脂肪の寄与がごくわずかになることを示しました。Achten(2003)は、最大の脂肪使用量が平均0.52g/分で、個人差が大きいことを報告しています。Wewege(2017)は、HIITとMICTのどちらも全身の脂肪量と腹囲を有意に減らしたことを示すメタ分析です。脂肪燃焼ゾーンは実在するものの、体脂肪の減少を決めるのはそれだけではないことを、複数の角度から示しています。


5. LiAiL式「有酸素運動を正しく設計する5つの介入」

  1. まず食事を含めた総エネルギー収支を整える:体脂肪を落とす主役は、運動中の燃料の内訳ではなく、1日・1週間の総エネルギー収支です。有酸素運動は、その収支を整える手段の一つとして位置づけてください。
  2. 強度は「続けられるか」で選ぶ:息は上がるが会話はできる程度の中強度を長めに行うか、時間が限られるなら高強度と休息を繰り返すインターバル形式にするか。両方式とも脂肪量の減少に同程度の効果が報告されているので、自分が無理なく続けられる方を選んでください。
  3. 心拍数は「参考情報」として使い、個人差を前提にする:Fatmaxには個人差があり、一つの心拍数で全員の最適強度は決まりません。心拍計の数字に縛られず、きつさの感覚や会話のしやすさも併せて強度を調整してください。
  4. 筋トレと併用し、回復も設計に入れる:減量中は筋肉量を守るため、筋トレを継続してください。高強度の有酸素運動を増やす場合は、Vol.20で解説した回復の設計もセットで見直し、疲労を溜めすぎないようにしましょう。
  5. 胸の痛み・息切れ・めまいがある場合は自己判断で継続しない:特に高強度の運動は心臓や血管への負担が大きくなります。運動中や運動後に胸の痛み、強い息切れ、めまいなどがある場合は、運動を中止し、医療機関に相談してください。持病のある方は、始める前に主治医へ確認することをおすすめします。

まとめ:ゾーンを守ることより「総エネルギー収支」と「続けられる強度」が重要である

今回関連の深い過去の回を振り返ります。

  • Vol.19:糖質制限は「痩せる」と「強くなる」で最適解が真逆になり得る
  • Vol.22:部分痩せは起きず、体脂肪は総エネルギー収支で決まる
  • Vol.23:感覚ではなく、記録された数値で効果を判断する
  • Vol.24:脂肪燃焼ゾーンは実在するが、体脂肪の減少を決めるのはそれだけではない

次週Vol.25では、「サプリメントの常識を疑え。BCAAは本当に必要か」を解説します。今回の「手段より土台を整える」という視点を、サプリメントの選び方に応用する内容です。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「ゾーンは参考情報で、守るべきルールじゃない」。心拍計の数字に縛られてた人は、これで肩の力が抜けそう🐾

オレは散歩のとき、ゆっくり歩くのと全力で走るのとどっちが痩せるんだ?🐾

小太郎、それは1日のごはんの量との兼ね合い次第よ。来週Vol.25は「サプリメントの常識を疑え」。BCAAは本当に必要かを解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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