【土曜連載26】強く・美しく・動ける体を作る科学|姿勢と筋力の科学|LiAiL
パパ、デスクワークのお客さんが「猫背を直したいから、背筋を伸ばす筋トレをしたい」って言ってたんだけど……姿勢って筋トレで本当に変わるの?🐾
姿勢の話は「正しい形が一つある」と思われがちだけど、研究はそこまで単純じゃないの。パパ、確認できていることと仮説を、きちんと分けて話しなさい。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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22,000本以上のセッションの中で、「猫背を直したい」「反り腰が気になる」というご相談は、最も多いものの一つです。13年間の製薬・医療機器業界で、手術の現場で背骨や肩まわりの構造を数多く見てきた経験から言えるのは、人の姿勢はもっと個人差が大きく、そして変化しうるものだということです。
今回のVol.26では、姿勢と痛みの関係、筋力で姿勢は変えられるのかという研究の現状、そして現場での考え方を整理します。
(👉 【土曜連載Vol.13】モビリティとストレッチングの科学はこちら)
(👉 【土曜連載Vol.14】呼吸法とバルサルバ手技の科学はこちら)
(👉 【土曜連載Vol.25】年齢とトレーニングの科学はこちら)
(👉 【土曜連載Vol.5】漸進的過負荷の科学はこちら)
結論から言うと、姿勢は「一つの正解の形」を目指すものではなく、「いろいろな姿勢をとれて、それを保てる力」を育てるものです。
1. 「良い姿勢」とは何か|まず思い込みを整理する
① 理想の姿勢は、一つではない
背骨は、首は前に、胸は後ろに、腰は前に、というゆるやかなカーブを持っています。このカーブの大きさには、もともと大きな個人差があります。「耳・肩・骨盤が一直線に並ぶ姿勢が正解」と教わった方も多いと思いますが、全員が同じ形に収まる必要はないというのが、現在の研究や臨床の主流の考え方です。
② 姿勢と痛みの関係は「関連はあるが、原因とは言い切れない」
「悪い姿勢が腰痛や肩こりの原因」と断定する情報はよく見かけますが、研究結果は一様ではありません。Swain CTV, et al.(Journal of Biomechanics, 2020)は、4,285件の文献から選んだ41件の系統的レビューとメタ分析を整理しました。その結果、背骨の姿勢、長時間の座位や立位、前かがみなどについて、腰痛との関連が見られる報告と、見られない報告の両方があることが示され、著者らは「原因として合意できる結論はない」と述べています。
③ 「悪い姿勢」を怖がりすぎなくてよい
この結果は、「姿勢は気にしなくてよい」という意味ではありません。ただ、「猫背だから必ず痛くなる」「反り腰だから絶対に直さないといけない」という不安を、過度に持つ必要はない、ということです。姿勢の偏りが気になる時は、形を責めるより、「その姿勢を支える筋力や、動かせる範囲が十分か」を確認するほうが、実際に役立ちます。
④ 同じ姿勢が「長く続くこと」が問題になりやすい
痛みや疲れの訴えは、姿勢の形そのものより、同じ姿勢が何時間も続くことで増える、という臨床上の経験則があります。ただし、これは研究で一貫して証明されているわけではなく、現場での見立てを含みます(推測を含みます)。そのため、LiAiLでは「正しい姿勢を保つ」よりも、「こまめに姿勢を変える」ことを先にお勧めしています。
2. 科学的根拠|姿勢は、筋力トレーニングで変えられるのか
① 【研究データ】運動で猫背の指標が改善した研究は、13件中8件
「Exercise for improving age-related hyperkyphotic posture: a systematic review」(Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 2014)は、45歳以上で胸椎の丸み(後弯角)が40度以上ある方を対象とした運動介入の研究を整理した系統的レビューです。13件の研究のうち、8件で、少なくとも1つの姿勢の指標に改善が見られたと報告されています。
ただし、このレビューは、データが少なく質にもばらつきがあったため、結果を統合した数値(プール推定)は出せなかったと述べています。それでも、質の高い研究で見られた良い結果から「ある程度の効果は期待できる」としつつ、さらに質の高いランダム化試験が必要と結論づけています。
📚 専門的エビデンス
Swain CTV, Pan F, Owen PJ, Schmidt H, Belavy DL. “No consensus on causality of spine postures or physical exposure and low back pain: A systematic review of systematic reviews.” Journal of Biomechanics, 2020; 102: 109312.
PubMedで詳しく見る
“Exercise for improving age-related hyperkyphotic posture: a systematic review.” Archives of Physical Medicine and Rehabilitation, 2014; 95(1): 129-140.
PubMedで詳しく見る
前者は「姿勢と痛みの関係は、原因とは断定できない」こと、後者は「運動で姿勢の指標が改善した研究はあるが、質の高い試験はまだ少ない」ことを示しています。
② この研究から「言えること」と「言えないこと」
言えるのは、「運動によって姿勢の指標が良い方向へ動いた研究が複数ある」という点までです。一方で、対象は45歳以上で、すでに後弯が強い方に限られています。若い方のデスクワークによる猫背に同じ効果が出るとは、このレビューからは言えません。また、どの運動が最も有効か、効果がどれくらい続くかも、十分には分かっていません。
③ 臨床でよく使われる考え方|「上位交差症候群」は仮説
臨床では、「胸や首の前側の筋が硬く、背中や首の後ろの筋が弱くなる」という説明(上位交差症候群と呼ばれる考え方)がよく使われます。この考え方は、トレーニングの組み立てに役立つ一方で、筋の硬さや弱さが姿勢や痛みの原因だと証明されているわけではなく、あくまで現場での見立ての枠組み(仮説)です。LiAiLでも、「だからこの筋を伸ばす・鍛える」と決めつけず、実際の動きと筋力を確認してから判断します。
3. 筋力の視点|姿勢を「保つ力」を鍛える
① 姿勢は「静止画」ではなく「保持する持久力」
姿勢は、一瞬の形ではなく、長い時間その形を保つ力が必要です。つまり、1回だけ強い力を出す筋力よりも、軽めの力を長く出し続けられる筋の持久力が関わります。朝は良い姿勢でも、夕方に崩れてくるのは、この持久力が足りなくなっていることが一因と考えられます(推測を含みます)。
② 背面の筋|「引く」動作を押す動作と同じ量やる
ベンチプレスや腕立て伏せなど、「押す」種目に偏ると、肩が前に出た姿勢になりやすい、という見立てがあります。LiAiLでは、肩甲骨まわりを動かす「引く」種目(ローイングなど)を、押す種目と同じか、やや多めに入れています。これも、研究で厳密に確立された比率ではなく、運用上の目安です。
③ 胸椎と肩の動き|土台はVol.13のモビリティ
胸の背骨(胸椎)が動きにくいと、腰や首が代わりに動いて負担が増えることがあります。Vol.13で解説したモビリティの考え方で、胸椎の回旋や伸展、肩の挙上の動きを確認し、動きにくい部分は筋力トレーニングの前に準備として行います。
④ 体幹|呼吸と腹圧を使って背骨を支える
Vol.14で解説した通り、お腹の圧(腹圧)を適切に高めると、背骨が安定します。姿勢を保つ時も、「胸を張る」「腰を反らす」と力むより、呼吸を保ちながら体幹を軽く固める感覚のほうが、無理なく続けやすいです。
⑤ 重い重量の下で背中が丸まる時は、姿勢ではなく設計の問題
スクワットやデッドリフトで、重くなると背中が丸まる場合は、普段の猫背ではなく、重量の設定や股関節の動き、体幹の力の問題であることが多いです。Vol.15のスティッキングポイントの考え方で、どの局面で崩れるかを確認し、重量を下げて形を整えるところから見直します。
4. 実践|引く量の決め方と、日常の整え方(計算例)
① 「押す」と「引く」のセット数の目安
たとえば、週に押す種目(ベンチプレス、ショルダープレスなど)を12セット行っているなら、引く種目(ロウ、ラットプルなど)は12〜18セット(押す量の1〜1.5倍。12×1.0=12、12×1.5=18)を目安にします。1回のセッションで6〜9セットずつに分ければ、時間も無理なく収まります。回数は10〜12回、RPEは7〜8を中心にします。
② 姿勢を保つ持久力の鍛え方
引く種目に加え、軽めの重量で肩甲骨を寄せたまま10〜20秒止める動きや、腰を反らさずに体幹を保つ種目(プランクなど)を、週2回、2〜3セット入れます。重さより、フォームを崩さずに保てる時間を伸ばすことを目標にします。
③ デスクワークの整え方|「30分に1回、1〜2分動く」
座りっぱなしの時間は、30分に1回を目安に立ち上がり、肩を回す、背伸びをする、歩くなどで1〜2分動きます。これもLiAiLの運用目安ですが、同じ姿勢が続くことを避ける、という考え方に基づいています。机や椅子の高さを整えることも、補助的に役立ちます。
④ 変化の確認は「写真」と「保持時間」で
姿勢の変化は、日々の見た目ではなかなか分かりません。月に1回、同じ服装・同じ場所で、正面と横から写真を撮り、あわせて保持できる時間(プランクなど)を記録します。形が変わらなくても、保持時間が伸びていれば、確実に前進しています。年齢による変化の幅も考慮してください(Vol.25)。
⑤ よくある疑問|「反り腰」は無理に直すべきか
腰のカーブが強い「反り腰」は、見た目が気になって直したいというご相談が多いテーマです。先ほどのSwainらのレビューが示す通り、背骨の形と痛みの関係は一定ではないため、痛みや動きの制限がなければ、形だけを理由に無理に矯正する必要はありません。一方、重い重量を扱う時に腰が反りすぎて痛みが出る場合は、お尻とお腹の筋力、股関節の動きを確認して、フォームを整えます。「形を直す」のではなく、「痛みなく動けて、負荷に耐えられる状態を作る」ことを目標にします。
LiAiL式「姿勢と筋力を整える5つの科学的介入」

- 「一つの正解の形」を目指さない:姿勢と痛みは関連があっても原因とは断定できないため、形を責めず、動きと筋力を確認します。
- 引く種目を、押す種目の1〜1.5倍やる:週12セット押すなら、12〜18セット引きます。
- 保持する力を育てる:軽めの重量で、肩甲骨や体幹を10〜20秒保つ練習を週2回入れます。
- 動きの土台を先に整える:胸椎と肩の動き(Vol.13)、呼吸と腹圧(Vol.14)を準備に取り入れます。
- 30分に1回、姿勢を変える:同じ姿勢が続く時間を減らし、写真と保持時間で変化を確認します。
※しびれ、強い痛み、夜間も続く痛み、脱力感がある場合は、トレーニングで解決しようとせず、整形外科などの医療機関を受診してください。
まとめ|姿勢は「形」ではなく「いろいろな姿勢をとれて、保てる力」
土曜連載の中から、今回のテーマに関係の深い回を振り返ります。
- Vol.5:負荷は少しずつ上げて、続けるもの
- Vol.13:動かせる範囲が、フォームの土台になる
- Vol.14:呼吸と腹圧が、背骨を支える
- Vol.15:崩れる局面を知れば、設計を見直せる
- Vol.25:年齢で変わるのは、回復の余裕
- Vol.26:姿勢は、保つ力を育てるもの
次週Vol.27では、「肩の健康とトレーニング」を解説する予定です(※テーマはご指示に合わせて変更します)。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムースとウメを娘のように愛する、誠実な伴走者。
(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら)
(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)
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「正しい形を目指す」じゃなくて「保つ力を育てる」っていう整理、猫背を気にしているお客さんに安心して伝えられそう!押す12セットなら引くは12〜18セットって計算も覚えやすいよ🐾
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