【月曜連載15】医療現場が教えるカラダの真実|スポーツ外傷からの復帰基準|なぜ「痛みがない」だけでは足りないのか|LiAiL

2026.08.24

パパ、膝の靭帯を怪我したお客様が「もう痛くないから競技に戻っていい?」って聞いてきたんだけど、痛みがなければ復帰していいんじゃないの?🐾

ムース、それこそがスポーツ現場で最も危険な誤解の一つよ。「痛みがない」ことと「元の機能に戻っている」ことは全く別物なの。パパ、パワーリフティング競技者としての経験も含めて語りなさい。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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前回Vol.14では「高齢者の転倒予防」についてお伝えしました。今週Vol.15は、月曜シリーズこれまでの手術現場での知見に加え、私自身のパワーリフティング競技経験も踏まえた「スポーツ外傷からの復帰基準|なぜ『痛みがない』だけでは足りないのか」を解説します。

(👉 【月曜連載Vol.14】高齢者の転倒予防はこちら
(👉 【月曜連載Vol.7】腱・靭帯の修復と運動はこちら
(👉 【月曜連載Vol.5】人工関節置換術後のリハビリはこちら

「痛みがなくなったから治った」「もう普通に動けるから大丈夫」これは選手・患者双方が抱きやすい判断です。しかしスポーツ医学の現場では、この「感覚的な復帰判断」こそが再受傷の最大の原因であることが分かっています。


1. 「痛みの消失」と「組織の治癒」はイコールではない

痛みは神経系が発する警告信号ですが、組織の修復プロセスとは必ずしも一致して進行しません。Vol.7で解説した通り、腱・靭帯の修復には炎症期・増殖期・リモデリング期という段階があり、コラーゲン線維が十分な強度を獲得するまでには、痛みが消える時期よりもはるかに長い期間を要します。

特に前十字靭帯(ACL)再建術後の競技復帰について、手術から6ヶ月未満で競技復帰した選手は、それ以降に復帰した選手と比較して再受傷リスクが有意に高いことが複数の研究で報告されています。「痛くないから大丈夫」という自己判断は、組織強度が不十分な段階での再受傷を招く典型的なパターンです。


2. 復帰判断で見るべき「4つの評価軸」

筋力の左右差(LSI:Limb Symmetry Index)

スポーツ医学の現場では、受傷側と健側の筋力を比較するLSI(左右対称性指数)が復帰基準の一つとして広く用いられます。多くのプロトコルでは、大腿四頭筋・ハムストリングスの筋力がLSI90%以上に達していることが競技復帰の目安とされています。感覚的には「もう戻った」と思っていても、数値化すると左右差が大きく残っているケースは珍しくありません。

動作の質(ジャンプ着地パターンなど)

片脚ジャンプ・着地テストなどで、膝が内側に入る「ニーイン」動作や、着地の衝撃吸収パターンの左右非対称性を評価します。筋力が回復していても、神経筋制御(体の動かし方の癖)が受傷前と異なったままでは、同じ受傷パターンを繰り返すリスクが残ります。

心理的準備状態(Psychological Readiness)

身体機能が基準を満たしていても、「また怪我をするのではないか」という恐怖心(キネシオフォビア)が残っている選手は、無意識に動作を制限し、結果として再受傷リスクが高まることが報告されています。ACL-RSIスケールなど、心理的準備度を評価する指標も国際的に活用されています。

競技特異的動作でのパフォーマンス

日常生活動作ができることと、競技特有の急激な方向転換・ジャンプ・コンタクトに耐えられることは全く別の基準です。復帰前には、実際の競技動作に近い負荷での段階的なテストを経て、初めて実戦復帰へと進むべきです。

📚 専門的エビデンス
Grindem H, et al. “Simple Decision Rules Can Reduce Reinjury Risk by 84% After ACL Reconstruction.” British Journal of Sports Medicine, 2016.
PubMedで詳しく見る

本研究はノルウェーの前向きコホート研究で、筋力・動作テストを含む復帰基準を満たしてから競技復帰した選手は、基準を満たさずに復帰した選手と比較して再受傷リスクが大幅に低いことを示しました。「痛みがない」という主観的判断ではなく、客観的な数値基準に基づく復帰判断の重要性を示す代表的な文献です。


3. LiAiL式「スポーツ外傷からの復帰を見極める5つの視点」

  1. 「痛みの消失」を復帰の合図にしない:痛みがないことは復帰の必要条件であって十分条件ではありません。組織の修復期間(Vol.7参照)を踏まえた時間軸を意識します。
  2. 筋力の左右差を数値で確認する:可能であれば筋力測定機器やスクワット・ランジなどの反復回数比較で、受傷側と健側の差を客観的に把握します。
  3. 動作の質を動画などで確認する:ジャンプ着地・方向転換動作をスマートフォンなどで撮影し、左右の動きの違いや不自然な代償動作がないかを確認します。
  4. 段階的な負荷漸増プロトコルに従う:日常動作→軽負荷トレーニング→競技特異的動作→実戦復帰という段階を飛ばさずに進めます。焦って段階を飛ばすことが再受傷の典型的な原因です。
  5. 医師・理学療法士・トレーナーが連携して判断する:復帰基準は種目・年齢・受傷部位によって大きく異なります。自己判断や指導者の主観だけで復帰時期を決めず、医療専門職の評価を経て決定してください。

まとめ:復帰基準は「感覚」ではなく「数値と段階」で決める

月曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.1〜5:脂肪・姿勢・脊椎・心臓・関手術現場が教える体の構造的真実
  • Vol.6〜8:骨・腱靭帯・神経|組織修復と力学的刺激の関係
  • Vol.9〜14:がん・透析・糖尿病・妊娠・高齢者|制約のある体を支える運動設計
  • Vol.15:スポーツ復帰は「痛みの有無」ではなく「筋力・動作・心理」の総合評価で決める

次週Vol.16では、「脳震盪と運動|見えない損傷からの安全な復帰プロトコル」を解説します。外傷の中でも判断が特に難しい脳震盪について、段階的復帰の考え方を深掘りします。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

(👉 代表・乳井の詳しいプロフィールはこちら


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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

「痛みがない=治った」じゃないなんて、選手にとってすごく大事な話だね。LSI90%っていう数字の基準、分かりやすい!🐾

キネシオフォビアって初めて聞いた言葉だ……体だけじゃなくて心の準備も見るなんて、奥が深いな🐾

小太郎、それが再受傷を防ぐ重要な視点なのよ。来週Vol.16は「脳震盪と運動」見えない損傷からの安全な復帰プロトコルを解説するわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和

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