【木曜連載16】最新論文から読み解く美と健康|エンドルフィンとランナーズハイ|運動が生む天然の鎮痛・多幸感の科学|LiAiL
パパ、「ランナーズハイ」ってジョギング好きなお客さんがよく話してるけど、あれって「エンドルフィンが出るから気持ちいい」って理解で合ってる?🐾
実はそこ、近年の研究で理解がアップデートされている部分なの、ムース。パパ、13年の製薬業界経験を活かして、この「よくある誤解」を最新の研究に基づいて正確に語りなさい。🐾
皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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脳内物質編もいよいよ第四弾。今回Vol.16は「エンドルフィンとランナーズハイ|運動が生む天然の鎮痛・多幸感の科学」を解説します。実は「ランナーズハイ=エンドルフィン」という理解は、最新の研究では正確ではない可能性があります。
(👉 【木曜連載Vol.2】コルチゾールとインスリン抵抗性はこちら)
(👉 【木曜連載Vol.9】マイオカインが脂肪・脳・骨密度を変える分子生物学はこちら)
(👉 【木曜連載Vol.13】セロトニンとドーパミンが操る脳内物質の科学はこちら)
(👉 【木曜連載Vol.15】BDNFが運動で脳を若返らせる分子生物学はこちら)
「ランナーズハイ=エンドルフィン」というイメージは広く知られていますが、近年の研究では、あの独特な多幸感の主役は別の物質である可能性が高いことが分かってきています。今回は、この「よくある誤解」を正確に整理します。
1. エンドルフィンとは何か。体内で作られる「天然の鎮痛物質」
エンドルフィン(Endorphin)は「体内(endogenous)+モルヒネ(morphine)」を組み合わせた名前の通り、脳下垂体や視床下部で作られる内因性オピオイドと呼ばれる物質です。痛み刺激やストレス、そして運動によって分泌され、脳や脊髄にあるオピオイド受容体に結合することで痛みの感覚を鈍らせる(鎮痛)働きを持ちます。
運動時にエンドルフィンが血中で増加すること自体は、多くの研究で確認されている確立した事実です。運動後に痛みを感じにくくなったり、気分が落ち着いたりする感覚には、このエンドルフィンが関与していると考えられています。
2. 「ランナーズハイ」の正体。エンドルフィン単独説からのアップデート
① エンドルフィンは血液脳関門を通過しにくいという問題
運動中に血中エンドルフィンが増加するのは事実ですが、エンドルフィンは比較的大きな分子(ペプチド)であるため、血液脳関門を通過して脳内の多幸感に直接関わることが難しいのではないか、という指摘が研究者の間でなされてきました。血中濃度の上昇と、脳が感じる「ハイ」な感覚が必ずしも一致しない可能性があるのです。
② 内因性カンナビノイド(アナンダミド)がより有力な候補として浮上
近年の研究では、体内で作られる内因性カンナビノイド(アナンダミドなど)が、運動誘発性の多幸感により強く関わっている可能性が示されています。この物質は脂溶性で分子が小さく、血液脳関門を通過しやすいという特徴があり、エンドルフィンよりも「脳内での多幸感」を直接説明しやすい候補とされています。
③ 中強度の持続的な有酸素運動で最も反応しやすい
エンドルフィン・内因性カンナビノイドともに、短時間の高強度運動よりも、ある程度の時間(目安として30分以上)継続する中強度の有酸素運動でより顕著に増加する傾向が報告されています。「無理に追い込む」よりも「持続する」ことが鍵になる可能性があります。
④ エンドルフィンの鎮痛・ストレス緩和効果自体は確立している
多幸感の主役が何であれ、エンドルフィンが運動誘発性の鎮痛やストレス緩和に寄与するという事実そのものは、多くの研究で支持されています。「ランナーズハイの正体」という一点においては議論が続いていますが、運動が痛みの感じ方や気分に良い影響を与えること自体は確立した知見です。
📚 専門的エビデンス
Fuss J, et al. “A runner’s high depends on cannabinoid receptors in mice.” Proceedings of the National Academy of Sciences, 2015.
PubMedで詳しく見る
本研究はマウスを用いた実験で、オピオイド受容体(エンドルフィンが結合する受容体)を薬理学的にブロックしてもランナーズハイに似た行動変化が消失しなかった一方、カンナビノイド受容体をブロックするとその変化が消失したことを示しました。この結果は、少なくとも動物モデルにおいてランナーズハイの多幸感がオピオイド系よりもカンナビノイド系に強く依存していることを示唆する重要な知見です。ヒトでの解釈には注意が必要ですが、「ランナーズハイ=エンドルフィン」という単純な図式の見直しを促した研究として知られています。
3. LiAiL式「運動誘発性の多幸感・鎮痛効果を引き出す5つの工夫」

- 中強度の有酸素運動を30分以上継続する:会話がぎりぎりできる程度の「ややきつい」強度を、途切れず30分以上続けることが、エンドルフィン・内因性カンナビノイド双方の反応を引き出しやすいとされています。
- 運動強度は「ややきつい」を目安にする:主観的運動強度(RPE)で10段階中6〜7程度、無理なく続けられる強度を目安にすることが、過度な負荷によるコルチゾール上昇(Vol.2参照)を避けつつ効果を得るバランス点です。
- 高強度運動一辺倒を避ける:短時間の全力運動よりも持続的な中強度運動の方が多幸感を得やすいとされるため、高強度インターバルだけに偏らず、有酸素ベースの運動も習慣に組み込むことをお勧めします。
- 運動習慣を一貫して継続する:単発の運動よりも、継続的なトレーニング習慣を持つ人の方が運動誘発性の多幸感を感じやすいという報告があります。数回で判断せず、数週間単位で体の反応の変化を観察することが大切です。
- 自然の中や気持ちの良い環境で運動する:環境要因(自然光・緑・空気)も気分の改善に寄与するとされ、屋外での有酸素運動は室内トレーニングにはない相乗効果が期待できます。
※慢性的な痛みがある方、鎮痛剤を常用している方は、運動強度の設定について自己判断せず医師・専門家にご相談ください。
まとめ:「ランナーズハイ=エンドルフィン」は、科学の進歩で更新されつつある知識である
木曜連載、脳内物質編Vol.13〜16を振り返ります。
- Vol.13:セロトニン・ドーパミンがやる気と食欲を操る
- Vol.14:オキシトシンが筋肉維持・コルチゾール抑制に関わる
- Vol.15:BDNFが海馬の体積を増やし、脳を若返らせる
- Vol.16:エンドルフィン・内因性カンナビノイドが運動誘発性の鎮痛・多幸感を生む
次週Vol.17からは新シリーズとして、「エピジェネティクスと生活習慣——遺伝子は運命ではない科学」を解説します。脳内物質編から一歩踏み込み、生活習慣が遺伝子の「発現」そのものを変えるという、さらに根本的なテーマに迫ります。
✒️ 執筆者プロフィール
乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表
米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムースとウメを娘のように愛する、誠実な伴走者。
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LiAiL 運営会議:本日のまとめ
「ランナーズハイ=エンドルフィン」だと思い込んでたけど、科学ってどんどん更新されていくんだね。知ったかぶりせず正しく伝えることが大事だと分かった🐾
オレが散歩の途中でご機嫌になるのも、案外このカンナビノイドとやらのおかげかもな。今度から30分は歩くようパパにねだるぞ🐾
小太郎、良い着眼点ね。来週Vol.17からは新シリーズ「エピジェネティクスと生活習慣|遺伝子は運命ではない科学」さらに根本的なテーマに踏み込むわ。🐾





