【火曜連載24】女性ホルモンと体型の科学|月経痛と運動|LiAiL

2026.10.27

パパ、生理痛がひどいときって、運動したほうがいいの?それとも寝てたほうがいいの?どっちが正しいのか分からなくて…🐾

結論から言うと、運動で痛みが軽くなる可能性を示すデータはあるの。でも「どんな運動でも、誰にでも効く」と言えるほど強い根拠ではないわ。パパ、数字と限界をセットで説明してあげて。🐾

皆さん、こんにちは。LiAiL代表の乳井雅和です。
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(👉 note「臨床解剖学(図解)」トレーナー向け解説記事はこちら)

前回Vol.23では「女性アスリートの無月経とRED-S」についてお伝えしました。今週Vol.24は、22,000セッションを超える指導の中で「生理中は運動していいのか」という質問に向き合ってきた立場から、「月経痛と運動。痛みを和らげる運動は本当にあるのか」を解説します。

(👉 【火曜連載23】女性アスリートの無月経とRED-Sはこちら)
(👉 【火曜連載2】月経周期の4フェーズと代謝変動はこちら)
(👉 【火曜連載17】女性ホルモンと運動パフォーマンスはこちら)
(👉 【火曜連載15】経口避妊薬(ピル)とホルモンの科学はこちら)

「痛いときは安静に」と「動いたほうが楽になる」。どちらも耳にする言葉ですが、研究で確かめられているのは「定期的に運動を続けた人で、痛みが軽くなる傾向があった」ところまでです。


1. 月経痛の正体。「原発性」と「続発性」を分けて考える

月経痛(医学用語では月経困難症)は、大きく2つに分けられます。1つ目は原発性で、子宮や卵巣に明らかな病気がないのに起こる痛みです。月経のときに子宮の内側から作られるプロスタグランジンという物質が、子宮を強く収縮させることが主な原因と考えられています。2つ目は続発性で、子宮内膜症や子宮腺筋症などの病気が背景にある痛みです。

月経周期との関係も整理しておきましょう(詳しくはVol.2で解説しています)。排卵後に高まったエストロゲンとプロゲステロンは、妊娠が成立しないと月経の直前に急に下がります。すると、厚くなっていた子宮内膜がはがれ落ちる過程でプロスタグランジンが多く作られ、子宮が強く収縮します。この収縮が血管を一時的に圧迫し、子宮の筋肉が酸素不足になることが痛みの一因とされています。痛みは月経の始まりの前後から1〜2日目に強く出る方が多く、それ以降は自然に軽くなるのが一般的です。

市販の鎮痛薬(NSAIDs)が月経痛に効くのは、このプロスタグランジンの産生を抑えるためです。また、月経困難症の治療として、医師の判断でホルモン薬(Vol.15で解説したピルの仲間)が使われることもあります。つまり月経痛には、運動以外にも医療として確立された選択肢があります。運動は、それらを否定するものではなく、自分でできる選択肢の一つとして位置づけるのが正確です。

今回扱う運動の研究は、病気のない原発性の月経痛が対象です。痛みが年々強くなる、鎮痛薬が効かない、日常生活に支障が出る場合は、続発性の可能性があるため、運動より先に婦人科での相談が必要です。


2. 運動は月経痛を減らすか。Cochraneレビューの結果

📚 専門的エビデンス
Armour M, Ee CC, Naidoo D, Ayati Z, Chalmers KJ, Steel KA, de Manincor MJ, Delshad E. “Exercise for dysmenorrhoea.” Cochrane Database of Systematic Reviews, 2019.
PubMedで詳しく見る

12件の臨床試験(854名)を対象とした、システマティックレビューです。運動をした群は、何もしない群に比べて痛みが軽く、100mmの痛みの目盛り(VAS)で平均約25mm低下しました(9試験・632名の解析)。運動の種類は、ヨガ・ストレッチ・体幹トレーニングといった低強度のものから、ズンバや有酸素運動などの高強度のものまでが含まれています。著者らは、1回45〜60分、週3回以上の運動で効果が見られる可能性があるとしつつ、エビデンスの確実性は「低い」と評価しています。

実際の研究の中身も見てみましょう。対象は18〜43歳(平均25歳)の、月経が順調で原発性の月経痛がある女性です。運動は、ヨガ、ストレッチ、体幹トレーニングといった低強度のものと、ズンバや有酸素トレーニングといった高強度のものに大きく分かれます。指導者がついたプログラムも、自宅で行うプログラムも含まれており、期間は多くが8週間または12週間、最も長い研究で7か月でした。「どんな運動でも効く」というより、幅広い種類の運動で、痛みが軽くなる方向の結果が出たと読むのが近いでしょう。

25mmという数字は、たとえば「痛みが10段階で7だった人が、約4.5になる」程度の変化です(目盛りを単純に置き換えた目安の計算です)。生活への影響を考えると、小さくない差だと言えます。

ただし、比較の相手は「何もしない群」です。運動そのものの効果なのか、体を動かして気分が上向いたことや、研究に参加して自分の体に意識が向いたことの影響なのかは、切り分けられていません(推測を含みます)。また、痛みは自己申告の数字であり、人によって感じ方が違う点にも注意が必要です。


3. 数字の読み方。分かっていることと、分かっていないこと

この結果は希望が持てる一方で、そのまま鵜呑みにはできない点がいくつもあります。

  • 確実性は「低い」:研究ごとに結果のばらつきが非常に大きく(異質性I²=91%)、試験の設計上、参加者が自分が運動群かどうかを知っている点も弱点です。
  • 筋トレは調べられていない:対象はヨガ、ストレッチ、体幹、有酸素運動などで、レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)の効果は、この論文からは確認できません。
  • 鎮痛薬との比較はない:運動が薬より良いのか悪いのか、併用で上積みがあるのかは不明です。
  • 対象者が限られる:参加者は18〜43歳(平均25歳)で、月経が順調な原発性の月経痛の方です。子宮内膜症などがある方の結果ではありません。
  • 効果が続くかは不明:運動をやめた後も痛みが軽いままなのか、25歳より上の年代にも当てはまるのかは分かっていません。
  • 理由(メカニズム)は未確定:血流の改善や気分の変化などが考えられていますが、推測の段階です。

つまり、「運動すれば必ず痛みが消える」ではなく、「定期的に動く習慣をつけた人は、痛みが和らぐ傾向があった。ただし確実性は高くない」というのが、現時点で正確な言い方です。


4. 実際の取り入れ方。「痛い日」より「普段」がカギ

注目したいのは、研究の多くが8〜12週間の継続的な運動を行っていることです。つまり、痛い日にだけ頑張るのではなく、普段から習慣として動くことが前提になっています。目安の例を計算してみましょう。

  • 1回45分 × 週3回 = 週135分。
  • それを8週間続けると、合計約1,080分(18時間)。
  • 1回60分なら、週180分・8週間で約1,440分(24時間)。

運動習慣がない方の進め方の一例として、最初の2週間は週2回・各20分のウォーキングとストレッチ、3〜4週目は週3回・各30分、5週目以降は各45分へと段階的に増やす方法があります。この段階的な進め方自体は研究で検証されたものではなく、無理なく続けるための私の提案です。

これはあくまで研究の条件を数字にした例で、「この通りにやるべき」という処方ではありません。いきなり週3回が難しい方は、週1〜2回の軽いストレッチやウォーキングから始めるのも現実的です(その場合の効果は、研究では確認できません)。

痛みが強い日の選択肢としては、ゆっくりしたウォーキング、股関節まわりのやさしいストレッチ、深い呼吸を意識した軽い体操などがあります。これらは「無理なくできる例」であり、痛い日にこの運動が効くと確認されたものではありません。めまいや吐き気が強いときは、運動を中止して休んでください。

もう一つおすすめしたいのが、痛みの記録です。月経1〜2日目の痛みを0〜10の数字で、運動した回数や鎮痛薬を使った日とあわせてメモします。3か月ほど続けると、運動の影響があるのか、痛みが強くなっていないかが見えてきます。受診するときにも、医師に状況を正確に伝える材料になります。

Vol.17で触れたように、月経周期に合わせた運動の調整は「理論上もっともらしい」段階にとどまります。痛みが強い日は無理をせず、動ける範囲で。調子の良い日に習慣をつなぐ、という柔軟な考え方で十分です。


5. やりすぎは逆効果。Vol.23とのつながり

「運動が効くなら、たくさんやるほど良いのでは」と考えるのは危険です。Cochraneレビューも、運動は回復や栄養、ケガの管理に注意を払えば、おおむね安全に行えると考えられるとしていますが、有害事象(副作用)の報告は十分ではなく、「安全だと確かめられた」とまでは言えません。

ここで思い出したいのが、前回Vol.23のRED-Sです。運動量を増やしても、食事が足りなければ「利用可能エネルギー」が下がり、月経が乱れたり止まったりすることがあります。「月経痛が楽になった」からといって、運動量を増やし続けたり、食事を減らしたりするのは本末転倒です。また、月経が止まって痛みがなくなることを「解決」と考えてはいけません。それは痛みの改善ではなく、体からの警告である可能性があります。


6. よくある疑問に答えます

Q1. 月経中に運動しても大丈夫?
月経中だからという理由だけで運動を禁止する根拠は、確認できていません。痛みや体調が許す範囲で、無理のない強度なら問題ないと考えられます。ただし、強い痛みや貧血のような症状(立ちくらみ、息切れなど)があるときは、休んでください。

Q2. 鎮痛薬を飲んだ日に運動してよい?
薬の種類や体調によって異なるため、この論文からは判断できません。使用中の薬については、医師や薬剤師に確認してください。

Q3. ピルを飲んでいる人にも運動の効果はある?
今回のレビューでは、運動と薬を比べた研究や、併用の効果を調べた研究はなく、不明です。ピルの服用は医師の判断で行うものなので、運動を理由に自己判断で中止しないでください。

Q4. 筋トレは月経痛に効く?
この論文では、筋トレ(レジスタンストレーニング)は調べられておらず、効果の有無は分かりません。月経痛が目的でなくても、筋力や骨の健康のために筋トレを続けること自体は、引き続き意味があります。


7. LiAiL式「月経痛と上手に付き合う5つの視点」

  1. 「痛い=安静」と決めつけない:動ける範囲で体を動かすことが、痛みの軽減につながる可能性がある。ただし、無理をして悪化させない。
  2. 痛い日だけでなく普段から動く:研究は8〜12週間の継続が中心。週1〜2回の軽い運動から習慣にする。
  3. 運動の種類は続けやすさで選ぶ:低強度(ヨガ・ストレッチ)も高強度(有酸素)も効果が見られた。好きで続くものが一番。
  4. 筋トレの効果は「まだ不明」と理解する:筋トレが悪いわけではなく、月経痛への効果が確かめられていないだけ。他の目的(筋力・骨)のために行うのは問題ない。
  5. 強い痛みは我慢せず受診する:痛みが年々強くなる、鎮痛薬が効かない、仕事や学業に支障が出る場合は、子宮内膜症などの病気が隠れていることがあります。運動で様子を見ず、婦人科にご相談ください。薬の使用も、医師や薬剤師の指示に従ってください。

まとめ。運動は「効く可能性」があるが、万能ではない

火曜シリーズこれまでの流れを振り返ります。

  • Vol.2:月経周期の4フェーズと代謝変動
  • Vol.15:経口避妊薬(ピル)とホルモンの科学
  • Vol.17:女性ホルモンと運動パフォーマンス
  • Vol.23:女性アスリートの無月経とRED-S

次週Vol.25では、「月経前の体重増加とむくみ。水分バランスとホルモンの科学」を解説します。


✒️ 執筆者プロフィール

乳井 雅和(Masakazu Nyui)
パーソナルジム LiAiL(リアイル)代表

米国大学にて解剖学、栄養学、運動生理学を専攻。13年にわたり製薬・医療機器業界に従事し、数百件以上の手術現場への立ち合いを通じて、人体の内部構造をリアルに把握してきた類稀な経験を持つ。その圧倒的な知識量は、一般のお客様のみならず、各競技のプロアスリートからも厚い信頼を寄せられるほど。「根拠のない指導で、お客様の大切なお金と時間を奪う嘘の情報をなくしたい」という強い信念を持ち、フィットネス業界全体のレベルアップを自らの使命としている。科学的な「正しい設計図」に基づき、お客様が「今の自分が一番好き」と胸を張れる人生をプロデュース。愛犬のムース・ウメ・小太郎を家族のように愛する、誠実な伴走者。

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LiAiL 運営会議:本日のまとめ

運動で月経痛が軽くなる傾向はあるけど、確実性は高くないんだね。筋トレの効果はまだ分かっていないってところも大事だ🐾

痛い日に気合いで動けって話じゃないんだな。普段から無理のない運動を続けて、ひどい痛みは病院へ。これが正解だ🐾

小太郎、その通りよ。来週Vol.25は「月経前の体重増加とむくみ」。水分バランスとホルモンの関係を見ていくわ。🐾


川越パーソナルジムLiAiL代表乳井雅和